第4章 朋友 「Intension⑯」
これまでにわかっている魔族の進行状況を再度マッピングする。
既に避難が完了している地域もあるため、その後の目撃情報はそれほど多くはない。しかし、こちらに向かっているという情報には変化はなかった。
転移を使って状況確認に赴いた。これまでの情報から速度や方角を計算して、あたりをつけた地点で目視による確認を行う。
3つ目に出向いた場所で、独特の気配を感じて推測が確信に変わることとなった。
こちらが気づいたという事は、向こうも同じ状況という事だろう。不本意だが、奴とは見えない波長のようなもので繋がっている。距離が近ければ互いの存在を認知してしまうのだ。
この場で下手な動きに出ると、数で圧倒されてしまうのは明白だった。俺はすぐに転移を行い、その場を後にした。
「いきます。」
現状から考え出した最適解。
人民を避難させるには、魔族との距離が微妙だといえた。
子どもや老人がいる事を考慮すれば、もう少し早いタイミングで避難誘導をしていた所で戦火に巻き込まれてしまう可能性は高かっただろう。
中立都市という側面があるため、シニタに駐留する戦力は他国に比べても著しく乏しいといえた。それがこういった有事の際に、防衛の難しさを突きつけられる事となる。しかし、それを嘆いていても仕方がない。
最良のパターンを施し、被害が出ないように考慮する。それが同様の任務で培った経験であり、知識として蓄積されていた。
聖女クレアが聖脈とのリンクを開始する。
数時間前よりもスムーズにそれに成功した事が確認できた。
「結界、展開します。」
燐光の領域。
聖属性魔法の中でも、現代では施術できる者がいないとされる高難易度の術式。
膨大な魔力と聖なる御力が必要とされる古代魔法に属する結界式だ。
半径数kmに及ぶ領域を展開し、邪悪なる存在の侵入を不可能にするといわれる究極結界。
クレアへの負担は想像を絶するものだと思われる。しかし、これに成功し維持できる事が可能となれば、彼女は精神的なしがらみから解放されるだろう。
聖女として、1人の人間として、非力な自分に対して自責の念を抱いていたのは、彼女の優しさと責任感の強さによるものだ。
そんなクレアに対して、俺は茨の道を指し示してしまった。前回のエクストラ・ヒールは彼女の実姉を救うための奇跡だった。今回は不特定多数の人々を守護するための奇跡。
この二つの奇跡の実現が広く認知されれば、彼女の存在はさらなる崇拝の対象へと変わる。それは、心身共に膨大な負荷を背負い込む結果となってしまうだろう。
ただ、俺自身もそれを遠目に見ているつもりはなかった。今回の事案を解消できれば、ある決意を表明するつもりだ。
何にしても、今はクレアの成功を祈るしかない。そして、その後に彼女や他の尽力する者達に報えるよう、命を賭けるのは自分の責務だと考えていた。




