第4章 朋友 「Intension⑫」
「もう大丈夫だ。」
部屋を出て、他の者達に声をかけた。
「え、あ···もう、終わったのですか!?」
最初に反応したのはクレアだった。
大司教を始め、教会の者達は呆けた顔をしている。
「ああ。宝珠の欠片と中に封印されていた悪魔王の意識は消滅した。」
教会には俺がどういった力を振るったのかを説明しておかなければならない。
少なくとも、ここにいる者達は協力的なのだ。下手な誤解を生まないように理解を促しておきたかった。
「魔族の集団が到着するまでにはまだ時間がかかりそうです。」
ターナー卿からの連絡を受けて、地図を広げて現在位置を確認した。
幸いにも、進行ルートには被害の出そうな街や村はなさそうだ。
「近郊に住む人達は大丈夫でしょうか?」
「考えうる避難勧告を迅速に手配しました。それと、今のところは魔族は地上には目もくれずに真っ直ぐにこちらに向かっているようです。」
聖女クレアの質問に、バリエ卿が的確に回答する。
「そうですか。予断は許されないでしょうが、ひとまず安心しました。」
「この都市も、人民の緊急避難のために駐留する三国の騎士達が動いてくれています。我々もしばらくしたら出立しましょう。」
「·························。」
「聖女様?」
「ここに残ると言ったら、タイガさんの邪魔になりますか?」
バリエ卿から視線を移したクレアが、俺の目を見ながらそう話した。
「理由は?」
「もし、魔族が人を襲うのであれば、避難中の隊列に注目させるわけにはいきません。」
「おとりになると?」
「少なくとも、シニタに残って目のつく場所にいれば、魔族の目はこちらに引き付けられるのではないでしょうか?」
目に強い決意が宿っている。一緒に避難しろといっても説得は難しそうだった。
「せ、聖女様!?」
大司教が慌ててクレアを止めようとする。
「ふむ···クレア、聖脈のことをおぼえているか?」
聖脈とは、かつて瀕死のクリスティーヌを回復させるために、神アトレイクが解放した聖なる力の道のことである。
人智を超えたその聖道は、古代魔法であるエクストラ・ヒールの発動のために、聖女クレアに強大な力を与えた。
「はい···聖脈が何か?」
可能かどうかはわからないが、あれを使えば大規模な結界を張ることができるのではないかという思いつきからの発言だった。




