第4章 朋友 「Intension⑩」
束の間、思考を展開する。
南方の宝珠が悪魔王と関連するならば、小国が周辺諸国に対して武力行為に及んだ原因は間違いなくそれだろう。
アトレイク教の分教会に封印されていた宝珠を持ち出したのが誰なのかは、今の時点では何の情報もないらしい。
宝珠の保管場所に心当たりがある人間ということなら、内部犯行かその存在を知る小国の関係者だと思える。しかし、悪魔や魔族が擬態して直接乗り込んだという可能性も捨てられなかった。
容疑者の特定ができたとしても、今何かができるわけではない。しかし、遠く離れたシニタまでその宝珠の欠片を追って来るということは、明確な意図があるに違いない。
「その宝珠の欠片を見せていただけますか?」
まずはその宝珠が想像通りの物かを調べる方が良いだろう。
そう思って、大司教を促した。
「こちらの部屋に保管されています。」
地下にある最奥の部屋まで案内された。
厳重な封印が施されているらしく、辺りの空気は不自然なほど静謐なものだと感じられる。
扉の前で感覚を研ぎ澄ませた。
聖属性魔法がベールのような役割を果たし、深い霧の中にいるような感覚を持った。
目を閉じてさらに集中する。
微かな闇の波動が部屋の一点から漂っていた。蠢くような何かが封印と絶えず衝突し反発している。
「たぶん、悪魔王の封印に関係した宝珠だと思う。」
そっと目を開けてそう告げた。
「あ、悪魔!?」
大司教が絶句し、傍にいたクレアとクリスティーヌも身をすくめる。
「それが狙いってことか?」
「たぶんな。」
アッシュの問いにそう答え、俺は扉の施錠を外すために鍵を要求した。
「ど、どうするのですか?」
「宝珠の欠片を完全破壊します。あれはこの世にあって良い物じゃない。」
大司教が驚いているが、敵の狙いが宝珠の欠片である事は明白だろう。そして、これを手に入れるためにこちらに向かっているというのなら、厄災を呼び寄せる代物と思うべきだった。
「できるのか?」
「以前にも同じような宝珠を見た。それに、グルルの力ならそれが可能だと思っている。」
宝珠が完全な物なら難しいかもしれない。だが、ここにある欠片は小さな波動に過ぎない。この程度なら何とかなるという確証のようなものがあった。
「で、では聖属性魔法士を複数名呼びます。封印の解除と障壁の展開を···。」
おそらく封印の解除は必要ないだろう。俺が触れたら破れるはずだ。だが、万一の備えとして結界は必要かもしれなかった。




