第4章 朋友 「Intension⑥」
「やあ、久しぶりだね。」
バリエ卿が笑顔で迎え入れてくれた。非常事態だというのに軽い気もするが、これが彼の持ち味ともいえる。
肝が据わっているのだ。そこらの為政者とは一線を画すといって良いだろう。そういえば、神アトレイクが俺の良き理解者になるとか言っていたのを思い出した。
「ご無沙汰しております。その節はご迷惑をおかけしました。」
「いや、迷惑だなんて思っていないよ。私は君の人柄を知っていたからね。まぁ、立場上は無関係を装っていたけど。」
バリエ卿は大公と義兄弟の関係にある。叙爵式の一件を考えれば、対外的な配慮としては間違いないのだろう。むしろ、内々でも理解者がいるという面で心強かった。
「それが最適解でしょう。そういえば、ビルシュはどうしていますか?」
ビルシュはアトレイク教会の教皇だ。ハーフエルフで、かつてはテトリアと共に旅をした治癒士だと聞いている。そして、俺をテトリアの転生者だと公言して天剣爵位という名誉を与えようとした当事者でもある。テトリアが叙爵式に乱入したことにより、彼の立場は相当マズイことになっているはずだった。
「彼なら、真実を探ると言ってあの後すぐに旅立ったよ。」
「真実を探るって···もしかして、立場を考えずに糾弾から逃げ出したのですか?」
以前も教会の不穏分子に運営を丸投げして放浪していたことを思い出した。
「そうとも言えるね。」
「よく身柄を拘束されなかったものだ。」
テトリアの本性が明らかになった時点で、元パーティーメンバーであり、さらに俺を担ぎ上げようとしたことが教皇としての地位を揺らがせたのは想像に難くない。
「まあ、世間では色々と言われているが、神託を受けれる人だからね。世論さえ無視すれば、教会内で彼をどうにかできるのは聖女様くらいだろう。しかし、聖女様はそういった野心がないから、ほとぼりが冷めるまで身を隠しているんじゃないかな。」
「相変わらず適当ですね。」
「それでもテトリアはともかく、君への信頼は揺らいでいなかったみたいだよ。」
「何か確証でもあったのでしょうか?」
俺とビルシュとはそれほど深い関わりはない。無条件に信頼されても気持ちが悪いだけだ。
「テトリアは内面的にお子さまだったから、ああなっても仕方がないと漏らしていたそうだ。ただ、君については天命を受けているのは間違いないと言っていたそうだよ。詳しいことはわからないけれど。」
神アトレイクから何かを聞いているのかも知れない。次に会う機会があれば、その辺りを尋ねてみようかと思った。




