第4章 朋友 「Intension④」
「殲滅完了しました。」
王都に戻り、ターナー卿に報告を入れた。
「ありがとう。君たちのおかげで、被害もなくこの非常事態を終息できた。」
「私達はこのままシニタに向かいます。万一の場合に備えて、誰かを残していくつもりですが···。」
アッシュの顔を見る。
え、俺か?という顔をしていた。
普通に考えれば、王城の各面々と面識のあるアッシュを残すべきだ。
しかし、不安がある。
今回の騒動の発端は間違いなくアッシュだ。
余計なボロを出されて、ただでさえ折り合いの悪い要職者に付け入る隙を与えかねないとも考えられる。
しかし他に適任者もおらず、アッシュ以外の者を残したとなると別の勘繰りを与えかねなかった。
「タイガ殿。こちらは事後処理だけなのだろう?それならば、全員でシニタに向かうのが最善だと思うが。」
ターナー卿が思いもよらない提案を入れてくれた。
「こちらはそれで大丈夫ですか?」
「ただでさえ、すべてを君たちに委ねてしまったのだ。このくらいのことをしなければ、王国騎士団の名折れになる。それに、即断即決の君がその様子を見せるというのは、それだけシニタや聖女様の事を心配しているからだと見えるしな。」
ターナー卿が軽く笑みを見せた。
おそらくこの人は、こちらにとって何か都合の悪い事があるのを見抜いているのだろう。
しかし、それならばその好意に甘えさせてもらうのが最善だといえた。
「わかりました。ありがとうございます。」
王都の外へと歩いて向かった。
その場ですぐに転移しても良かったのだが、少し間を置く事で万一の備えにもなる。
魔族に討ち漏らしがあり、再び有事になった際の備えだ。時間的に気休め程度にしかならないが、ないよりはマシといえた。
「俺だけ残されたら、どうしようかと思ったぞ。」
アッシュがボソッと言ってきた。少し恨めしい感情がこもっている。
「おまえを残したら、余計な一言を漏らしてややこしく事になりそうだったからな。ターナー卿の申し入れがあって助かった。」
「···それもそうだな。」
いや、納得されても困るのだが。
アッシュにしてみれば、シニタでの戦いに参加できない事が嫌なのだろう。生粋の戦闘狂らしい思考だ。
ただ、不用意な発言や行動を自覚しているのなら、少しは自重して欲しかった。
気質としてはギルマスに向いているし、人望もある。しかし、リルやガイウスのように冷静に物事を捉えられる者が近くにいないと、破綻してしまう欠点もあった。
王都での事後処理は、少し前までスレイヤーギルドに在籍していたスレイドが現場指揮を執る事になった。実力的に考えれば順当だろう。ただ、彼もアッシュと似たような杜撰な所があるので、ターナー卿や兄である大隊長の指示を仰ぎながらになるだろう。
そんな事を考えながら、王都の出口を潜り抜けた。




