123話 大切な居場所⑮
ダルメシアンと別れた後に防具屋に行き、先日の魔族との闘いで破棄することになったコートとベストを再度購入した。もっと耐久性のある鎧などもあるが、居合いの動きを制限されてしまうので好ましくない。
他に、バスタードソードも装備ができるように背中に2本の剣が収納できる帯剣ベルトを買った。蒼龍とクロスさせるような感じで背中に装着することが可能で、それほど厚みもないのでバックパックも背負えるだろう。
防具屋での用事を済ませると、ギルドの方向に向かい、空店舗となっている建物に行くことにした。
空店舗の前に貼られた看板を見ると、中は居抜きではなくスケルトン状態で、およそ30坪の面積がある。
居抜きとは前に入っていた店舗が間取りをそのまま残した状態、スケルトンとは構造柱が剥き出しになった何もない空間を言う。店の内装にかかる費用を考えると前者の方が安く済むが、カウンターや厨房などがそのまま残っているので自由度は低い。今回はスケルトンなので好きなように店を作ることができる。
エージェントとして建築士の資格も有していたので、内装のプロデュースはそれほど難しくはない。
ダルメシアンから要望を聞き、機能的な厨房施設の構築と、一般の客にも受けるようなオシャレな空間演出はお手の物と言えた。
エージェントが建築構造物の知識を有する理由は、ターゲットの家や就業場所への潜入、爆発物の効果的な設置を容易にするというのが本来の主旨である。任務遂行上、その知識が相当に生かせるのだ。
職務の中で空間デザインや、店舗プロデュースのプロに扮したことのある俺は、多くの資料に目を通してセンスを磨いた経験があった。
こんな異世界でその経験や知識が役立とうとは夢にも思わなかったが、何でも身につけておくべきだなと改めて考えさせられた。
看板に書かれた連絡先に出向いた。
こちらの世界の不動産業者にあたる地売屋の事務所だ。
「いらっしゃいませ~。」
不動産屋と言うと、事務的で静かな空間をイメージするが、地売屋は女性ばかりの華やかな職場だった。一瞬、来る店を間違えたのかと思ってしまったほどだ。
にこやかに席を進める若い女性が、
「担当させていただくドロシーです。よろしくお願いします。」
と素晴らしい営業スマイルで出迎えてくれた。
う~ん、これはあれだな。
美人局商法的なものを警戒した方が良いやつだな。
「スレイヤーギルド周辺の店舗物件の情報を見せて欲しい。」
特定の物件が欲しいと言うと足元を見て高値で売り込んでくる場合がある。不動産屋と言うのはどれだけ高い利益を出せるのかを追求する者が多い。数が売れない分だけ一件あたりの儲け幅を取ろうとする業界なのだ。
「スレイヤーギルド周辺の店舗物件ですね?購入と賃貸のどちらをご希望でしょうか?」
「良い物件があれば検討したいからどちらでも構わない。」
「わかりました。それではすべての物件情報をご用意しますので、しばらくお待ちください。」
ドロシーはそう言って奥の事務所に消えて行った。




