第4章 朋友 「加護者⑨」
「残りの奴等はどうした?」
襲撃に出向いてきた魔族の迎撃に成功した。
サキナやファフのおかげで、驚くべきスピードで殲滅できたといって良いだろう。
だが、これで全てではないはずだ。アッシュが討伐した数を入れても、規模が小さすぎる。
俺はまだ息のある魔族を探し、尋問を行っていた。
「ふ···貴様らは後悔する。ここに出向いたのはほんの一握りに過ぎん。」
虫の息ともいえるのに、勝ち誇ったように言う魔族に嫌な予感が広がった。
「どこに攻めに行った?」
「ふ···ふはははは。人間は多くの命を失うのだ。我らの意地と誇りを足蹴にした罰を受けるがい···ごふっ!」
最後の灯火を燃やすかのように、その魔族は嘲りながら命を散らしていった。
他にまだ話ができそうな魔族を探すが、似たような反応を返されただけに終わった。
それなりの勢力での移動だ。
調べればどちらに向かったのかを推測することは容易いだろう。しかし、分散されて街や村を手当たり次第に襲われるとなると、全てを防ぐことは難しい。
この近隣の配置を考えると、点在している集落はともかくとして、大きな被害が及ぶ街は少ないといえる。しかし、少数の人間とて命の重さは変わらないのだ。
「わかる範囲で確認してみたが、魔族の集団を目撃した情報は少ない。」
「どちらに向かっているかはわかるか?」
あれからすぐにスレイヤーギルドへと向かい、ガイウスとアッシュに情報を共有した。
周辺の街や村には簡易な通信手段が講じてある。それを活用して緊急の連絡を行い情報を収集させた。
「目撃情報は2ヶ所。ここと、この位置です。」
ガイウスが地図を広げてその位置を指で示した。
予測でしかないが、目撃の場所と時間を考えれば、魔族の進行方向は王都に向かっていると考えられた。
「俺の行動が余計なきっかけを作ってしまったか···。」
「そうとも言えるが、いずれ起きる事態だったとも考えられる。魔族に対抗できる手段ができれば、遅かれ早かれということだろう。」
実際に何らかの原因がなくとも、魔族が一大勢力で侵攻してくる可能性は常日頃からあった。
これまでにそれがなかったのは、魔族が個人主義で集団行動を好まなかったことと、圧倒的な集団の力で人間社会を捩じ伏せることに大した価値を見出だせていなかったことが原因だろう。
魔族は強大な力がゆえに娯楽に飢えていた。その感情を満たすために、人を狩りの対象としていた趣があったといえる。簡単に人間を滅ぼしてしまえば、その捌け口を失ってしまうからこそ派手な動きに転じてはこなかった。
「急いで避難勧告を出します。スレイヤーの各パーティーには警戒のために主要な街や村に向かってもらい、状況の確認と人々の避難誘導をするようにレイドを発令します。」
「すまないガイウス。その辺りの事は任せた。」
「アッシュさんは首都に向かわれますか?」
首都とは、ギルバート辺境伯領の中心都市のことだ。領土の統治機関もそちらにある。
「いや、そちらは魔族の進行方向から外れている。俺は王都に向かう。」
アッシュなりに責任を感じているのだろう。切羽詰まった表情をしている。
不謹慎だが、これで少しは行動に慎重になれば良いと俺は内心で思っていた。




