第4章 朋友 「加護者④」
「アッシュ!?」
「ギルマスッ!」
スレイヤーギルドにアッシュを連れ帰った時の喝采は凄かった。何十体もの魔族を屠った凱旋といったところか。
口々にアッシュの名前を叫び、揉み合いながら取り囲んで胴上げまでする始末。愛されているんだなと思いながらそれを見守っていたが、調子に乗った誰か···たぶん複数の野郎どもが高々とアッシュを放り投げ、天井に激突までしていた。うん···遊ばれているな。
「すごいですね。やはりアッシュさんの代わりは務まりません。」
ガイウスだ。
自信がなさげというよりも、こうなる事が必然だと悟ったような表情をしている。
「積み上げてきた歴史が違うからな。でも、ガイウスを評価する声も少なくはないと思うぞ。実務面でいえば非のつけどころないだろう。」
「···タイガさんでもお世辞を言うことがあるんですね。」
ガイウスは乾いた笑い声をあげた。
「利のないお世辞は言わない。人それぞれに持ち味は違うということだ。」
「でも、目指すところはあの人のようなカリスマ性ですよ?」
「欠点がある人間は、周りがカバーしようとしてくれるものだがらな。もちろん、それまでの関わりや人間性が大きく影響するが。俺もあいつの真似は一生かけても無理だ。」
「タイガさんは、相変わらず自分の事を過小評価しますね。」
「そう見えるか?だったら、ガイウスも同じだと思うぞ。」
自分の事を過大評価するようでは、エージェントとしては生き残れなかっただろう。ちょっとした奢りや余計なプライドが寿命を縮める。常に自信の無さや臆病な面があるからこそ、自分を磨くことができるのだ。
「ありがとうございます。あなたのその言葉は何よりうれしいですよ。」
いつも鋭さをひた隠しながら飄々としていたガイウスの本音かもしれない。偉大な父親を持つことの重責もあるのだろう。
「これからどうするつもりですか?」
「ここには俺の居場所はないだろう。拠点に戻る。」
「アッシュさんが戻ったのにですか?」
「そうだ。」
俺は踵を返した。
何かを言いたそうなフェリとパティの頭を撫で、ギルドの扉へと向かう。
人の気持ちなど、すぐに割り切れるものじゃない。
今はアッシュが戻った事で歓喜に包まれているスレイヤー達も、熱が冷めれば事の経緯の元凶が誰なのかを思い出す。
迎え入れてくれる者がいたとしても、逆の思考を持つ者が大半なら下手に関わらない方がお互いのためだ。
「ギルマス補佐っ!?」
自分の事を呼ばれたのか、確証はなかったが振り向いてみた。今はもう、そう呼ばれる立場にはいない。
ケイガンと目が合った。深々と頭を下げてくる。
近くにいた何人かも同じように振る舞っていた。
「ありがとうございました。」
その言葉を聞いて、嬉しさと寂しさを同時に味わった。
もう戻れない。
そう思い、少し感傷的になる自分の気持ちを押し潰した。




