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121話 大切な居場所⑬

ニーナの店を出て街を歩いた。


昼時だったのでランチに誘ってみたが来客予定があるらしい。残念そうな様子だったので今度一緒に食事をする約束をした。


下心はないぞ。

お世話になっているからお礼だ。


本当にないからな。




通りがかったステーキハウスで昼食を食べることにした。

肉が食べたいと思ったからだが、どうせなら焼いた牛肉が食べたいと考えていたら専門店があったのだ。


この地域では肉と言えば鹿やウサギ、イノシンといったいわゆるジビエ料理が主流だ。豚などの交配種はもともと存在しない。


ジビエ料理が苦手な訳ではないが、野生の物なので臭みを消すために味付けが濃いのだ。ご飯ではなく、パンが主食であることと相まってあまり好みではなかった。ご飯なら味が濃いのはおかずとしてちょうど良いのだが···こういった所は日本人だなと思う。今度、和食を自炊してみよう。


店に入ってサーロインステーキを注文した。


15分くらいしてから料理が運ばれてきたので食べてみる。

あまり期待をしていなかったのだが、かなりの美味しさで驚いた。塩とコショウだけの味付けで肉もそれほど上質なものではない。ただ、柔らかく臭みが出ないように丁寧にエイジングや筋取りがされている。価格は普通なのに、とんでもなく手間暇をかけた下ごしらえをしていることがわかった。


ちょっと感動をしていると、厨房から怒声が聞こえてきた。


「このバカ野郎が!俺が留守の間に客を待たせるような料理を作ってるんじゃねぇ。何度言ってもわからねーんなら今すぐに出ていけや!!」


「少し手間を加えるだけで美味くなるんですよ!効率ばかり考えても···。」


バシッ!


ガシャーン!


言葉の途中で嫌な音がした。


「口答えするんじゃねぇ!てめぇはクビだ!」


店主らしい男の吐き捨てるような声が響く。


近くをウェイトレスが通りかかったので声をかけてみた。


「これを作ったのって今殴られた人?」


「···はい。うちは料理の提供スピードと回転率を重視してるから···ダルメシアンはすごく美味しい料理を作るんですけど、オーナーとは合わなくて。」


「そうなんだ。ありがとう。」


会計を済ませて外に出た。建物の裏口らしき方に向う。




裏口の扉が開き、頬が腫れた男が出てきたので声をかけた。


「···な、何だよあんた。」


突然声をかけられた男は驚いていたが、先程のやりとりで感情的になっているのか口調が荒い。俺と同年代で細い体をしている。


「さっきこの店で食事をしたんだが、料理を作った人に会いたくて待ってたんだ。」


「···作ったのは俺だけど。何か用か?」


少しケンカごしに答えてくるが、眼には興味の色がうかがえる。


「ひさしぶりに美味いステーキを食べさせてもらった。ずいぶんと手の込んだ仕込みをするんだな。」


男はその言葉に驚きながらも、少し嬉しげな表情を浮かべた。


「そ、そうかぁ。美味いと言ってくれる人がいるんだな。あ、いや、その···ありがとう。」


根っからの料理人なんだろう。


ターニャの実家のレストランはパスタや煮込み料理がメインで、どちらかと言うと女性やファミリー向けのメニューが多い。スレイヤーがいるこの街ではもっとスタミナがつく料理の需要もあるだろう。


「俺はスレイヤーなんだ。さっきみたいな美味いステーキとか肉料理を出す店はこの街に必要だと思う。ちょっと話をしないか?」


魔族の討伐報酬はどんどん貯まっていく。どうせなら生活が潤うために使おうと思った。






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