第4章 朋友 「集う力⑭」
「タイガっ!」
すぐ近くまで来て馬上から降り立ったのは、やはりサキナだった。
表情が見える距離になってから、ずっと満面の笑顔を見せてくれていた。
その姿を見て、懐かしい気持ちと照れ臭さが出てくる。
駆け寄ってくるサキナを見て、んん?と思いながらどう受け入れようか束の間迷ってしまった。
勢いがありすぎて、そのままタックルでもされてしまいそうだったのだ。
「させません!」
咄嗟に、マルガレーテがサキナと俺の間に割って入った。
いや、危ないぞ。
「ちっ!?」
マルガレーテの背中越しに、サキナの舌打ちが聞こえた気がした。
なぜか殺気立つ2人。
え、何?
怖いんだけど。
ガキィーン!
先に剣を抜いたのはマルガレーテだったが、サキナもすぐにそれに合わせて臨戦体制をとる。
剣同士が衝突し、火花を散らした。
···なんでだよ。
「タイガ様に不用意に近づくな!?」
「あなたは誰?私とタイガの仲を知らないくせにでしゃばらないで。」
俺は、そっとファフを見た。
なぜこういう状況になるのか、誰かに答えを求めていたのかもしれない。
ファフは俺と目線を合わせると、すぐに視線をそらした。
「ソル、ここは危ないから少し離れていよう。」
「え、うん。わかった。」
「···············。」
ファフにスルーされた俺は、気を取り直して2人の横まで移動した。
「悪いが今は緊急を要する。後で話を聞くから、2人とも剣をおさめてくれないか。」
そう言うと、2人が一瞬射抜く様な視線を俺に投げてきたが、共に軽くため息を吐いて大人しく引き下がってくれた。
この2人は初対面のはずなのに、何か因縁でもあるのだろうかと思いながら次の行動について思考する。
その様子を見た2人は、互いに名乗りながら固い握手を交わしていた。
いや···握手にしては渾身の力が入っているようで、2つの腕がプルプルと震えていたのだが気にしないことにした。
「ソルとクリスはここにいる冒険者や作業員を誘導しながら、スレイヤーギルドの街に一次避難してくれ。」
この場が巻き込まれる可能性は低いだろうが、今のアッシュが加護者としての力を解き放ったとしたらファフやマルガレーテと同等かそれ以上の戦力となる。魔族相手に無双して蹴散らす結果になるかもしれない。逆に向かい打たれたとすれば、怒り狂った魔族が人間に対して報復行動に出る可能性もあるといえた。
余計な危険や不安要素を出さないための措置をしておかなければならない。
「マルガレーテは王都に行って万一に備えてくれないか?」
「私がですか?」
「ああ。マルガレーテなら、有事の際はチェンバレン大公やターナー卿とも話を通しやすいだろう。可能性は低いが、こちらの混乱に乗じて不測の事態が起こらないとも言えないからな。」
マルガレーテはサキナをチラ見しながら不満そうな顔をしていた。
「マルガレーテが適任なんだ。君にしか頼めない。」
「···そう言われたら仕方がありません。借り1つですよ。」
よくわからないが、笑顔で頷いておいた。
借りは踏み倒すためにある。
エージェントとはそんな存在だったりする。




