第4章 朋友 「集う力⑫」
「どうかしたのか?」
リルからの連絡だった。
塩湖の調査拠点で何日かが過ぎていた。
少し前にもリルから通信が入り、アッシュ以外にもリルとパティ、それにフェリまでが蒼帝ブラールの加護の影響で新たな力を得たと聞いている。
想定していた通りではあったが、彼女達を戦いに巻き込む可能性を考えると手放しには喜べないものがあった。しかし、リルはそれを感じたのか、強い意思が含まれた言葉を伝えてきた。
「力を得た以上、これは私達の問題よ。3人共一緒に戦うから。それはあなたのためだけじゃない。多くの人の安全に関わることなのだから、それぞれにスレイヤーとしての矜持を持っている。」
そのリルの一言で自分の気持ちは表に出さない事にした。彼女達の決意を無下にするのは誇りを傷つけることになる。リルらしい物言いだと思った。
「問題が起こったわ。」
「何があった?」
リルの背後からは騒めきが感じられた。何か非常事態が起こったのだろうか。
「アッシュから連絡が入ったのだけれど、蒼炎の力を得たから力試しに魔族に挑んでくると言っているの。」
は?
何を言ってるんだあいつは···。
「それって、魔族の占有地に単身で突っ込むとかっていう意味じゃないよな?」
「今の俺なら、そのくらいはできるはずだって···。」
馬鹿じゃないのか?
新しいおもちゃを与えられた子供か!?
「もしかして、それで背後が騒ついているのか?」
「ええ。カフェにいる所にアッシュから連絡が入って、話の内容を周りに聞かれてしまったの。」
通信用の水晶には当然イヤフォンなどは存在しない。連絡が誰から入ったかは、受けなければわからないのだ。
リルに落ち度はないが、スピーカーフォンのようにその場で周知されてしまったのだろう。アッシュはそんなことに配慮する性格ではないし、嬉々として「魔族を殲滅してくる!」とでも言ったのかもしれない。
「それで、まさかレイドとして現地に向かうつもりなのか?」
「ガイウスが必死で止めているのだけれど、みんな装備を身につけてすぐにでも出ようとしている。」
「わかった。アッシュの支援には俺が行く。他のスレイヤーが早まった真似をしないように見ていて欲しい。」
「わかったわ。ごめんなさい。」
「リルに責任はないよ。みんなを頼む。」
「うん。」
さて、どうしたものか。
リルとの通信を切った後に思考を展開する。
今のアッシュなら魔族の占有地に突っ込んだとしても、早々にやられたりはしないだろう。しかし、それによって他に飛び火する事態は想定しておくべきだ。
「タイガ。」
ファフに声をかけられた。
何かと思いそちらに視線をやった時に、こちらに向かってくる気配に気づいた。




