120話 大切な居場所⑫
ギルドを出た俺は一人で治療院に行った。
リルからきつく言われたせいもあるが、回復魔法が効かないので化膿などのリスクを未然に防ぎたかったからだ。
この世界の医療は元の世界と比べると科学的な研究があまりなされていない。魔法の発展がその理由だが、抗生物質などの科学薬が存在しないのだ。
魔法と同じように病気にも耐性があれば良いのだが、それを立証する手段は今のところない。
「君の体はどうなってるのかね?昨日の傷がほぼ塞がっているよ。魔法ではなく自然治癒でこんなに回復が早い人間を見るのは初めてだ···。」
先生、それは俺の方が理由を聞きたいです。
とりあえず体の方は順調に回復しているようだ。痛みも出血もなかったので模擬戦に参加したが、傷口が開くこともなかったようで何よりだ。
もしかして身体能力と同じように血小板とか白血球とかも能力が向上しているとか?
···よし、考えてもわからないものはスルーしよう。
治療院を出てからニーナの店に向かった。
渋いおじさんのティーンさんがすぐに取り次いでくれる。
「タイガ、いらっしゃい。行方不明になってる間に魔族を3体も倒したそうね。さすがだわ。」
「成り行きでそうなっただけだよ。」
「ケガは大丈夫なの?」
「うん。問題ない。」
ニーナに蒼龍の研ぎとバスタードソードの改造を依頼した。
「じゃあ見せてもらうから工房に来て。」
と言われ、腕を組まれて連れていかれた。
おお、胸が··胸が··柔らかい。
ありがとう。
「蒼龍は刃こぼれもしてないし、状態は大丈夫ね。ちゃんと手入れもしてくれているから、仕上げ砥石で軽くキレイにしておくわ。」
研ぐと言うのは刃を研磨することだ。状態に応じた研ぎをしないとすぐに刀は疲弊する。使用後のメンテナンスは重要だった。
「ダガーは良いの?」
「じゃあ、これも頼むよ。あと、このバスタードソードなんだが、抦の部分が少し太いから調整をして欲しい。」
そう言ってバスタードソードを見せた。
「···これってアダマンタイト製じゃない。純度がものすごく高い。どこで手に入れたの?」
アダマンタイトはこの世界で最高硬度を誇る金属だ。
ギリシア神話では英雄ペルセウスが魔物メデューサを倒した武具がこのアダマンタイト製だったと言われている。実在する金属ではなく、古代ギリシアでは非常に固い鋼鉄がそう呼ばれていたとする見解が強い。
こちらの世界ではレアメタルとして実在し、ダイヤモンド級の硬度を誇る金属として相当な高値がつくという。
「魔族が使用していたのを戦利品としてもらってきた。」
「そうなのね。少し時間はかかるけど、専用のグラインダーがあるからそれで調整して革を巻きつけて仕上げるわ。あと、鍔も大きすぎるから振りやすいように少し削っとく。」
刀身の長さはともかく、鍔や抦は調整をしてもらうことで扱いやすくなる。さすがニーナだ。一目見て調整が必要な部分を見抜いている。
「助かるよ。」
「蒼龍だけだと乱戦時の刃こぼれが心配だったの。このバスタードソードと使い分ければ私も安心だわ。タイガには無事に帰ってきて欲しいもの。」
ニーナはクスッと笑ってそんなことを言った。
外見だけでなく中身も惚れちゃいそうだよ。
内心でどう思おうが自由だから好き勝手にそんなことを考えた。




