第4章 朋友 「集う力⑥」
綺麗な女性だった。
他を圧倒するような美しさ。およそ人間らしくない造形ともいえる。
整った容姿だけではない。そこにいるだけで周囲が涼やかに感じるほど凛然な様相を呈している。悪く言えば、氷のような冷たさともいえるだろう。
近寄り難い雰囲気は神々しく、人というよりも女神を象った彫刻のようにも感じる。
この人が表情を崩すことがあるのだろうかと、空気に張り詰めたもの感じてしまう存在。
じっとこちらを見つめてくる眼差しには、何の感情も浮かんでいない気すらする。
「あ···あの···。」
躊躇いながらも声をかけようとすると、その女性は造り物のようなぎこちなさで表情を崩した。
一瞬の間の後に、笑顔を見せようとしているのだと気がついた。
普段から笑い慣れていないのか、その口もとが凄みのように感じる。
「もしかして···あなたがフェリさんですか?」
自分の名前を出されたことで我に返った。
「あ、はい。そうです···。」
じーっと、値踏みをされるような強い視線を受けたまま時間が経過する。「何だろう、コミュ症なのかな?」と思いかけたが、先ほどまでの自分の気持ちを思い出した。
「そうですか···私はマルガレーテ・キャロライン。タイガ様と行動を共にしています。」
タイガ様というところに強いアクセントが置かれていた。
この人も自分と同じなのだとわかった。
「ご丁寧にありがとうございます。フェリシーナ・ギルバートです。タイガがいつもお世話になっています。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
無言だが、ムッとしたような気配を感じた。
互いの視線が絡み合い、目に見えない火花がバチバチと散っていた。
意味もわからずに見ていたジーンが、精霊らしくない表情で引いている。
2人は互いの存在を無意識に知覚し、また別のことを巡って強敵だと認識したのだ。
「お、思っていたより、お若いのですね。」
「いえいえ、あなたこそおきれいですこと。」
さらに強く視線が絡み合う。
「うふふふふ。」
「おほほほほ。」
一見すると笑い合っているように見えるが、周囲の空気は重く、触れれば切れるような剣呑さに包まれていた。近くを通りかかった小鳥が、慌てて方向転換をして急加速で逃げて行くのがその状況のヤバさを物語っている。
『・・・・・・・・・・・・。』
事情がまったくわからないジーンは戦闘でも始まるのだろうかと思いつつ、顔は笑っているが目はギラギラと光っている2人を見比べていた。
口には出さないが『人間とは不思議な生き物だな』という表情をしながら。




