第4章 朋友 「新奇①」
「壮健そうで何よりだ。」
王都に潜伏して3日が経過した時に、ターナー卿から連絡が入った。
あまり目立たない様にそれとなく情報収集だけを行なっていたが、有用だといえるような結果は伴っていない。ただ、唯一気になったのは、この大陸の最果てにある小国が近隣諸国に対して侵攻を始める気配があるという不穏な動きだった。
わずか数万規模の小さな国。
特筆すべき産業もなく、軍事力もその規模に見合ったものだというのに、なぜそういった動きに出ようとしているのかは謎といえた。
王都に集まる商人からの情報として出回っているものだが、多くの者はすぐに鎮圧されるだろうという予想をしているようだ。勝算のない国家元首の乱心。そういった意見が多数を占めていた。
「ご無沙汰しています。大公閣下は少しお疲れのようですね。」
ターナー卿の采配によりチェンバレン大公の私邸に招かれることになった俺たちは、王都に入る時に使った役柄の通りに振舞っていた。
公務の途中で立ち寄った遠方の国の貴族一行。国交があるわけではなく、直接的な要件で出向いて来たわけでもないという体裁のため、国主と謁見するまでもないが国を代表する上位貴族としての歓待を受ける形が取られている。
設定としては無理がない。少し異例的なものではあるが、他の貴族から疑念を持たれることもないだろう。さすがの配慮といえた。
「差し迫った脅威というわけではないが、大陸内で少し騒乱が起こる気配があってな。近隣諸国による会合が開かれてそれに出向いていたのだ。」
「最果ての国による侵攻ですか?」
「そうだ。遠方の地とはいえ、その周辺諸国と国交がないわけではないからな。最悪を想定した事前の協議を行っていたのだ。」
かの国との距離を考えると兵を派遣するといった内容でもないのだろうが、何らかの交易があるのかもしれない。それに対する影響を考慮した協議の可能性が高かった。
「そうですか。大変な時に申し訳ありません。」
「いや、無事で何よりだ。個人的には戻って来てくれたことを嬉しく思っている。」
“個人的に”ということは、やはり国としてはいろいろとあるのだろう。
俺は大公に対して叙爵式の日以降に起こったことを語った。
今の状況を考える上で、何らかの協力や要望を出すことは難しいのかもしれない。しかし、いろいろと配慮をしてくれているであろう御仁たちには、説明することが篤実であると考えられたのだ。




