第4章 朋友 「蒼帝ブラール⑨」
『差し迫った脅威というわけではないが、今のこの世界には再び邪神シュテインの力が及ぼうとしているのは知っているな?』
「英雄テトリアを取り込み、魔族を裏で操っていることだろう。』
『厳密にいうならば、魔族は邪神シュテインの動きに迎合しているに過ぎぬ。あやつらは悪魔王の復活を望み、邪神に呼応しているのであろう。』
「悪魔王•••。」
『かつては複数の悪魔王が存在し、悪魔や魔族、魔物を統べておった。』
「過去にも邪神と共に活発な動きがあったということか?」
『いや、邪神とかつての悪魔王たちの活動時期は異なる。ただ、危惧するは邪神も悪魔王も元は神界にいた存在だということだ。』
「邪神シュテインは堕神だと聞いたことがあるが•••悪魔王も同じなのか?」
『そのすべてではないが、悪魔王の一部は堕天使だということだ。天使といえども、上位のものとなると神にも匹敵するほどの力を持っておる。』
「そいつらが復活すると?」
『可能性はある。』
「邪神シュテインが新たな悪魔王になる可能性は?」
『ないとは言えぬが可能性は低いであろう。悪魔王と邪神では存在の格が違う。』
「格が違うと何か不都合でも生じるのか?」
『神界にいるもの特有の考えだが、位階による力の差というものは大きいのだ。人間社会で言うならば、王と貴族では保有する権力の範囲が異なるであろう。それと同じ様なことだ。』
アッシュはこれまでの話を頭の中で整理した。蒼帝ブラールが言うようなことが現実に起こるなら邪神と悪魔、そして人間との間の争いは避けられないといえるだろう。過去の例を見ても互いに不干渉というわけには終わらない。
タイガから聞いていた神アトレイクの動きにも説得力が出るというものだ。魔族のみが相手ならともかく、邪神や悪魔王までが復活するなら世界は混沌と化す。
「蒼帝よ。あなたには俺の思考が読めるのだろう?」
『この祠は我の領域だからな。我が血族のそなたのことなら手に取るようにわかる。』
「ならば、俺が何を望んでいるかはわかるはずだ。」
『力を欲しているということだな。』
アッシュの眼差しには決意が滲んでいた。その瞳の中にある光に、蒼帝ブラールも真っ直ぐに応えようとしていた。
「今の俺ではタイガの横に並び立つには不足しているものが多過ぎる。試練があるなら言ってくれないか。」
『試練か。よかろう、それを望むのであれば死力を尽くすが良いだろう。』




