第4章 朋友 「蒼帝ブラール②」
「冥護というのが何かをお聞きしても?」
アッシュは老人に失礼がないように丁重に尋ねた。
「冥護というのは、人知れず神が守護をしてくださっているという意味です。」
「蒼帝の守護•••ですか?」
「その紋章は、四方の守護者であるブラール様のお姿を模したものでしょう。それをお持ちだということは、あなたはクルト様の血統を持つお方なのではありませんか?」
クルトというのは、ギルバート家の始祖であるクルト•ヴィルヘルム•ギルバートのことだろう。セカンドネームのヴィルヘルムは、爵位を叙爵した際に時の王から授けられたものだと聞いている。
「我が家系の始祖がクルトと言います。」
「やはりそうでしたか。クルト様はこの街の英雄として代々語り継がれているお方です。伝承ではあなたと同じ銀髪碧眼の偉丈夫だったと聞いております。」
「そのクルトは蒼帝に育てられた加護者だったと聞いていますが。」
「その辺りはあまり詳しくありませんが、クルト様がブラール様の寵愛を受けて加護を授かっていたというのは事実でしょう。かつてグリムリーパーの猛威を蒼炎で退けたと伝えられていますから。」
「グリムリーパーというのは?」
「ああ、失礼しました。今でいう魔族や悪魔のことです。残忍な手口で人を狩るという意味で、この辺りではグリムリーパーと呼ばれています。」
「魔族はともかく、悪魔も存在したと?」
「ええ。悪魔というのは上位の力を持つ魔族がクラスチェンジした存在であるとか、堕天使が成り果てた姿であるなど、様々な憶測として残っています。今では総称して魔族と呼ばれているようですが、その違いまではわかりません。」
アッシュにしてみれば、悪魔が実在したということ事態が初めて聞く内容だった。上位魔族が存在する以上、それがいてもおかしくはないかもしれないとも思えた。
「四方の守護者というのは、どのような存在なのかはご存知ですか?」
「そうですな。詳細まではわかりませんが、世界の各所でグリムリーパーの脅威を退けるために存在する神獣や神竜だと聞いています。ブラール様は東の守護者であるそうですよ。」
「なるほど。そのブラール様が祀られている場所とかはあるのでしょうか?」
「それでしたら、あそこに見える山の頂きに祠があります。古い遺跡の一部ですが、この一帯に残るものでは一番原型をとどめている建造物です。街の者たちがたまに御供えや清掃に出向きますが、不思議なことに魔物も近づかないのでブラール様のご威光がそうさせているのではないかと思われています。」




