第4章 朋友 「波乱⑧」
「そうか。やはり帰って来たんだな。」
「今の状況をわかっているから、直接王都に出向いたのだと思うわ。」
アッシュはリルからの報告を受け、顔が緩むのを感じていた。少し前にも共に旅をしているらしき2人が聖女クレアの前に現れたと聞いていたが、今回は認定証の使用履歴をたどったものだ。本人にしか使えないプロテクトが入っているのだから、間違いはないだろう。
「わかった。これ以上にない報告だ。」
「それで、まだ戻るつもりはないの?」
「まだだ。まだ時間が必要だ。」
「そう。家族にも連絡をしてあげてね。」
リルはそう言って、通信を終了させた。
アッシュは王城の意に反して更迭されたことを悔やんではいなかった。むしろ、ちょうど良いタイミングであるとも思えたくらいだ。
今のスレイヤーギルドは、タイガの助力もあって以前よりも高い戦力を持つに至った。
王城から派遣された聖属性魔法士は引き上げられ、騎士団の要職にある家族からの強い指示でスレイドまで抜けることになってしまった。しかし、それでも普通の魔族であれば、いくつかのパーティーは難なく討伐することが可能なほどになっている。
自分がいなくても、スレイヤーギルドは機能する。
家族には迷惑をかけてしまったが「今のあなたは見ていられない。もう一度、昔を思い出して」という妻の言葉が背中を押してくれた。
そういった背景もあり、アッシュは街を出たのだ。
これは武者修行の一環でもあるが、それ以上に自らの奥底に眠る力を呼び起こすための旅でもあった。
詳しい話をすると、共に行動しようとする奴らも出てくるかもしれない。そう考えて失踪という形をとることにした。後任でギルドマスターになったガイウスは苦労するだろうが、今のタイミングでなければ実現できない内容だったのだ。
ギルバート家は辺境を治める貴族である。
しかし、長きに渡り続く家系には謎も多かった。ちょうど500年ほど前にこの地に始祖となる男が現れているのだが、家系図ではそれ以前のことは記されていなかったのだ。
だが、実家を出てスレイヤーになるタイミングで、父親からあることを告げられていた。
「おまえにギルバート家の紋章の由来を教えておこう。」
普段は寡黙な父親が、そういって俺だけを執務室に呼び出した。その時はただの伝承のようなものだと思い、何となく耳を傾けていただけだったが、今になってそのことが記憶に蘇ってきたのだった。




