第4章 朋友 「波乱⑤」
「なるほどな。」
ターナー卿は俺の話を黙って聞き、その後ため息を吐いた。
どうしたものかと思考に耽っている。
普通に考えれば安易には信じ難い話だろう。
今後の対応を考えた場合、俺を投獄して大公や陛下の判断を仰ぐのが最善ともいえる状況に違いない。
一種の賭けだった。
他国の上位貴族とその従者たちという体裁で王都へと入り、主要人物との再会を果たす。そこまでは想定通りに進んでいる。
しかし、ここでターナー卿が俺に疑いを持ち投獄されるという状況に陥れば、一時にせよ行動が制限されてしまう。
マルガレーテはその場合のための予防線ともいえたのだが、国交がなく、まして遠く離れた名も知られていない国の存在をどう見るかはわからない。普通に考えれば知らない国とはいえ、そこの公爵令嬢を捕らえるという愚行には及ばないと考えられるのだが。
「ずいぶんと悩ましい状況だね。君は転移が使えるのだろう?手順に従って投獄しても意味はない。それに、別の大陸にある国については知見がないとはいえ、マルガレーテ嬢は明らかに上位貴族だとわかる人物だ。さすがというか、対策の講じ方には舌を巻くよ。」
それに気づけない者は多い。ターナー卿や大公なら、愚行はしないと考えての策だった。
「私への疑いをどう判断されるかはお任せします。もし不穏な存在だと思われるのであれば、ご迷惑はおかけしません。ただ、可能な限り戦力を揃えたいのです。願わくば、スレイヤーギルドの協力を得たいと考えています。」
「・・・アッシュ殿のことは聞いているのかな?」
「ええ、知っています。憶測でしかありませんが、あれもアッシュなりの考えがあってのことだろうと考えています。」
「すべてお見通しということか。」
ターナー卿が苦笑した。
今のやりとりで、やはりアッシュの失踪は大公あたりとの予定調和だと判断ができた。そして、ターナー卿もそれを知っているということだ。
「君を投獄するという選択肢はない。だが、今は大公が公務で不在だから、すぐに取り持つことはできない。しばらくは街に潜伏しておいてもらえないかな。」
「わかりました。」
ターナー卿の提案を最善だと判断した。
ただ、潜伏という言葉を使われたということは、変装は継続した方が良いということだ。強硬派の貴族あたりに俺の存在が知られれば面倒だといわれているのだと判断した。




