第3章 絆 「炎帝ロゥズル③」
途中、魔石の補充や宿で休養を取るために、いくつかの街に立ち寄った。
自走式馬車はそれなりに広いので、交代で睡眠を取ることも可能だ。
実際に、何日かはそうしていたのだが、やはりベッドで眠れるかどうかで、疲労の回復度は極端な違いを見せる。
また、それなりの頻度でしっかりとした入浴をして、体を清潔に保つことで、体調の維持管理には留意するようにした。
入浴ができる宿となると、この世界ではその数は極端に少ない。
しかし、入浴が体内の血流を良い方向に導き、雑菌の繁殖を抑えたり、病魔を防ぐ効果があることは、科学的な視野で実証されていることだった。
過度な緊張や、戦闘といった負荷を背負い込む可能性が高い旅路である。
魔法で浄化するという手段もある世界だが、俺にはその恩恵は受けられないし、血流への効果は入浴と同等のようなものを誰しもが受けることはできない。
その辺りのことを踏まえて、クリスには一般的な浴場、もしくは近い効果を得られるサウナの普及を促すことができないかを話してみた。
単に長旅の暇潰しの会話とも言えるのだが、「それならば、自走式馬車で牽引できる移動式の浴場やサウナを開発するべきだな。」というような答えが返ってきた。
研究や開発に没頭すると、何日も風呂やシャワーから疎遠になるといったイメージがあったクリスだが、実は入浴に関しては意識的にその頻度を増やしているらしい。
「血流を良くすることで脳の働きは滑らかなものになるし、リラックス効果は閃きにつながる。」と熱弁していた。
ならば、その移動式の浴場やサウナを増産して、そういった施設が少ない町や村に配備すれば需要があるのじゃないかと思い、そう伝えてみる。
「ふむ···その有用性と効果を広めれば、需要は見込めるだろうな。それに、商売としても悪くはないかもしれない。」
クリス自身は金儲けに直接的な欲を抱いてはいない。
しかし、学者としてのスポンサーである実家を儲けさせることは、自らの資金調達にとって重要なことに違いない。
「しっかりと統計を取れば、それで平均寿命をのばすことも実証できるのじゃないか?そうすれば、そちらの分野でも第一人者になれるのでは?」
「ほほう···確かにそうかもしれないな。」
クリスは論法や理屈で相手を説き伏せるタイプの学者ではない。実際に研究開発を行って有意義な物を作り上げ、その成果に優越感を得るタイプの思考が強いのだ。
本来ならば、武器開発という分野ではなく、生活にゆとりを持たせるような分野で辣腕を発揮すれば、多くの人々にとって有意義な物を提供することになるだろう。
俺自身にはそういったことに適性はないが、その分野を重点的に取り組める環境を整備する一助ならできるかもしれない。
即ち、争いごとの少ない平和な世の中に少しでも導くことが、俺にできる唯一のライフワークであると思えるのだった。
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