第3章 絆 「炎帝ロゥズル②」
黄昏の森を難なく抜けた後、当初の目的地に向かった。
進路を真南にとり、可能な限り整備された道···とは言っても、固くならされただけの地面ではあるが、最速で行けるように自走式馬車を操った。
ロビン・グッドフェローとは、そのまま黄昏の森で別れている。
かなり凹んではいたが、それをフォローする必要性などこちらには感じなかったので、自身で立ち直ってもらうしかないだろう。
アヤが何かを諭していた。
精霊としての生き方について、アヤなりのアドバイスをしていたのかもしれないが、そこは種族なりの独自の見解があるのだろうし、人間が踏み込む範疇ではないと思っていた。
気になるのは、他にも台頭しようとしている悪魔の存在についてだが、この広い大陸ではそれを網羅することは困難を極めるだろう。
手が届く範囲で力を尽くすしかないと割り切っていた。
念のために、王都にはマルガレーテから通信による注意喚起をしてもらっている。
おかしな動きが認められたら、すぐに連絡が入るだろうから、その時は俺とマルガレーテが転移で飛び、脅威となりそうな対象を排除するしかない。
もちろん、王都にもそれなりの戦力が残っているのだから、彼らも尽力をしてくれるだろう。
因みに、黄昏の森を出てからは、俺が自走式馬車を操車している。
クリスは悪魔バフォメットの手の物に拐われそうになったことで、相当な精神的ダメージを負ってしまったからだ。
視野が狭まり、状況判断も甘くなっていた。
常時、脂汗を浮かべて、たまにぶるぶると震えるようなことがあったので、これはマズイと判断したのだ。
学者というものは、自身が想定すらしていない事象に出くわすと、極端な弱さを発揮するのかもしれない。
クリスの様子を見かねたソルが、いろいろと話しかけてはいたが反応は乏しかった。
フォローを入れられる手段はないかと考えてはみたが、クリスが他の思考に夢中になれるテーマとなれば、武器開発や科学的な検証でしかない。
何かインパクトのあるものはないかと思考を繰り返すうちに、隣にソルがやって来た。
「タイガ、あの人のことだけど···。」
ソルは優しい。
黄昏の森を出てから数時間が経過していたが、ずっとクリスを気にかけていた。
「何かあったのか?」
「少し前から独り言が増えて、今もぶつぶつと何かをつぶやいている。」
「どんなことをつぶやいているかわかるか?」
「んっと···何か、霊力とは何だ?増幅するには···とか、だんやくにこめられるのはどんなほうそくなのだ···とか言っていたよ。」
···どうやら、取り越し苦労だったようだ。
すでにクリスの頭の中には、霊力を用いた攻撃手段の構築でも始まっているのかもしれない。
「そうか。もう大丈夫だな。」
さすがと言うべきか、科学者らしい切り替えというべきか···心配するだけ無駄だったわけだ。
「そうなの?」
「ソルのおかげだ。ありがとうな。」
俺はソルの頭を軽く撫でた。
「ん~、良くわからないけど、大丈夫なら良いかな。」
ソルは太陽のような微笑みを浮かべた。
おもしろい!早く続きが読みたい!と思っていただければ、広告を挟んだ下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけるとモチベーションが上がります。
よろしくお願いしますm(_ _)m
新作、「芒星の勇者 ~勇者として召喚されたけど、好き勝手に生きて何が悪い~」も同時連載中です。こちらもよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n1091hn/




