第3章 絆 「黄昏の森⑨」
ドーン!
離れた位置から、重低音が響いた。
場所は自走式馬車の方角だ。
マルガレーテたちが踵を返してから、まだ数分程度。
俺が体を拭き終わり、服を着込んだタイミングだった。
ゆっくりと歩いていたのなら、マルガレーテたち3人が直接巻き込まれた可能性は低い。
しかし、1人で居残っていたクリスが襲われたとは考えるべきだった。
先ほどの重低音は、音量とは相反して発火や発光などの現象が見られなかった。
とすると、あれは敵の攻撃ではなく、クリスの緊急時の合図と見るべきかもしれない。
俺は瞬間移動で自走式馬車の位置へと急行することにした。
その場で攻撃を受けているのならば、クリスには抗う術はないように思える。ならば、迅速に対応しなければ、せっかくの再会が水泡に帰してしまう。
クリスとの間に、友情などといったセンチメンタルな想いはない。
生きてきた世界が世界だけに、そういった情にとらわれる感情が芽生えにくい相手だと言えた。
しかし、彼の持つ知識や技術は、ここで簡単に手放せるほど稚拙なものではなかった。
自走式馬車の前に出る。
何かを引きずるような音と、「ひえぇぇぇぇぇーっ!」という緊張感のない叫び声が、自走式馬車を隔てた向こう側から聞こえてきた。
すぐに跳躍して自走式馬車の屋根へと移り、そちらの方角を確認する。
おそらくクリスが引きずられていったであろう痕跡を確認する。
森の奥へと遠ざかる音と気配に向かって走り出す。
「あの気配は、妖精パックだ。」
アヤが念話を送ってきた。
「先ほど話していた奴か。どんな奴だ?」
「人の上半身と、ヤギの下半身を持つ姿をしている。」
「すぐにクリスの命が絶たれる可能性は?」
「わからない。だが、そのつもりなら、わざわざ引きずって行ったりはしないだろう。」
アヤの言う通りだった。
何が目的かはわからないが、クリスが拐われたのは違わない。
俺はさらに加速して、クリスが連れ去られた跡を追うのだった。
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