110話 大切な居場所②
翌朝。
ギルドに行き、アッシュの執務室のドアをノックした。
昨夜はリルと良い雰囲気になったのだが、ニンニクの神様が「まだ早いっ!」って止めに入られた。
まぁ、勘違いだったかもしれないので、ニンニク神を非難するのはやめておこう。どうせ恋にはヘタレなエージェントですから。
「もう大丈夫なのか?」
「ああ、心配をかけた。」
そのやり取りでアッシュがニヘッと笑いやがった。
「心配していたのは俺よりもお前にご執心な女性陣だがな。」
この余計な言葉を吐く口を縫いつけてやりたいものだ。
「それで、何があったんだ?」
真面目な顔で聞いてきたが、よくそんな風に瞬時の切り替えができるものだ。まぁ、頼りになる相棒には違いないのだが。
真面目モードになったアッシュに事の経緯を話した。
·たまたま魔族に遭遇して、相性の悪い相手と闘い負傷してしまったこと。
·魔族が同胞の死因を調べて物理攻撃のみで自分達を屠ることができる存在に気づき、脅威を感じていること。
·俺がこのままスレイヤーを続けれることで魔族の人間に対する攻撃が本格化する可能性があること。
要点をまとめて客観的に伝える。
真剣な眼差しで話を聞いていたアッシュはすぐに言葉を返してきた。
「それで、スレイヤーを辞めたり、この街から出るとでも言ったりはしないよな?」
「····構わないのか?」
「おまえがいることで魔族への牽制になることがわかったんだ。逆にいてもらわないと困るぞ。」
フッと笑ってそんなことを言う。
カッコいいな、おい。
「魔族が出没しそうな地域へは今以上に警戒が必要なる。人間を見たら見境なしに襲ってくるだろうしな。だから、おまえと俺が互いにパーティーを持ち、巡回を強めれば良い。」
「···アッシュ、おまえのことを愛してしまいそうだよ。」
「やめろ、俺はそっちの趣味はない。」
「奇遇だな。俺もだ。」
2人で笑いあった。
本当に良い相棒を持ったものだ。
ハラペーニョもデスソースもしばらくは忘れてやろう。
この世界に来て一週間が経過していた。
元の世界では命をかけてエージェントの職務を全うしていたが、責任感で続けていたようなものだった。
だが、こちらでは違う。
責任感もあるが、初めて誰かのために戦いたいと思っている。
かけがえのない仲間や、自分自身のために命をかけるのも良いものだ。
倫理観から職務に疑問を持つことも、同僚や属している組織を警戒することもあまりなさそうだ。
憧れではなく、純粋に恋や結婚を考えることもできるだろう。
今、改めて思う。
この世界に来て良かったと。




