第3章 絆 「黄昏の森⑤」
「うわっ!」
作業に没頭している俺に近づいたソルが、悲鳴のような声をあげた。
軽く咳き込み、涙を目に溜めながら距離を取る。
「何···それ!?」
「トウガラシだ。自生しているのを見つけたから、加工をしている。」
トウガラシは元の世界の知識で言うなら、紀元前6000年前から中南米で栽培されていたという。
世界各地に広がったのは15世紀以降。比較的歴史は浅いものだと言えるが、気温が15度以上であれば栽培もしやすく、その多岐に渡る用途から様々な地域で生産をされている。
黄昏の森は広く、当初から夜営をする予定であったために、それに適した場所を探しているうちに群生しているのを発見したというわけだ。
襲撃があった後ではあるが、索敵については俺とファフ、それにアヤがいるのであまり緊迫する必要はなかった。
トウガラシは、俺にとって万能のアイテムだ。
香辛料としてはもちろんのこと、陰干しすれば胃腸薬にもなるし、エキスにして温湿布にすることもできる。
また、防虫や防菌効果もあるので、旅のアイテムとしては重宝したりもするのだ。
そして重要なのは、攻撃手段としても効果があることだ。
すでに実証済みだが、粉末状にすれば人間だけではなく、魔族に対しても目潰しや呼吸困難という状態異常をもたらすことができる。
どこの街にでも流通しているわけではないので、調達できる機会は逃すわけにはいかなかったということだ。
細かく刻んだトウガラシを、煮沸消毒した石で擦り合わせてペースト状にしていく。すり鉢があれば粉末状にできるのだが、持ち合わせがないために今回は断念した。
これは2つの用途に用いる。
1つは炸裂球に仕込んで投擲用の武器に、もう1つはタバスコにして調味料として使う。
タバスコを自作するのはそれほど難しいことではない。
トウガラシと塩、酢があれば比較的簡単に作ることができたりするのである。
因みに、塩と酢はクリスの研究材料として、自走式馬車に常備されているものを分けてもらった。
塩は塩化ナトリウムそのもので、主要化学原料である塩素、塩酸、水酸化ナトリウムの原料として使われたりするし、酢は殺菌や消臭力に優れているだけではなく、塩素と混ぜると有毒ガスを発生させたりもできる。
クリスが何に使うかはあまり想像したくはないが、科学者らしい常備品であることは間違いないと言えるだろう。
「よくあんなのを触って何ともないものだね···。」
ソルが眉をしかめながら、ファフやマルガレーテに話しかける。
「タイガは竜孔流で目や手を防護できるらしいぞ。」
「便利なスキルですね。」
「確かに、戦闘以外の用途に使う発想はすごいと言えるな。」
褒められているのか、貶されているのかはわからないが、率直な意見であるのは違いなかった。
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