第3章 絆 「黄昏の森①」
旅程は順調と言えた。
平坦な道の直線では、自走式馬車は時速60キロメートル前後のポテンシャルを誇る。
これは通常の馬車と比較すると、約2倍のスピードと言えた。
大量の魔石を消費するというデメリットが生じるが、馬とは違い疲弊しないことで、1日数百キロメートルの距離を走破してもまだまだ余力があるくらいだ。
クリスいわく、マックススピードは時速100キロメートルを超えることも可能だそうだが、接地面からの突き上げで、構造的な破損や乗員に身の危険が生じてしまうので実用的ではないらしい。
後部の足回りには、リーフリジット式サスペンションが採用されている。
これは、元の世界でもトラックなどに採用されていた方式で、複数の異なる長さの鋼板を重ね合わせたものである。
別名リーフスプリングとも呼ばれるその構造は、シンプルかつ安価であることもあり、こちらの世界でも大規模な商会が使用する荷馬車などには組み込まれていたりする。
重量物の荷重にも耐えうるので、実用性に関してはそれなりに高いものではある。しかし、段差を乗り越えた際の跳ね上げがきついために、整備されていない道では乗り心地の面で最悪なものとなってしまう。
「エア・サスペンションを望むのは、非現実的か?」
エアサスペンションは、その名の通り圧縮した空気をバネに置き換えたものである。
その特性は振動の振り幅を小さくするものであり、乗り心地を快適なものに変える。
「空気漏れを防ぐ手立てがこちらの世界にはないからな。可能なら、ぜひ教えて欲しいものだ。」
何気ない言葉を放った俺に、クリスは皮肉で返してきた。
元の世界でも、エア・サスペンションの空気漏れ対策は大きな課題とされていた。
「確かにそうだな。」
こちらの世界での実用性を考え、苦肉の策で採用されたのがリーフリジット式サスペンション
なのだろう。
素人考えで好き勝手に言葉を放つのは、控えた方が良いかもしれなかった。
「それに、ゴムタイヤが存在しない。」
サスペンションだけでは、地面からの振動を相殺するのは難しい。現状では、車輪に樹皮を巻きつけた上で、獣皮で被ったものが使用されていた。
元の世界では、西暦1888年に空気入りゴムタイヤが実用化されている。
クリスなら、そういった技術を取り入れることは可能だろう。
しかし、肝心の天然ゴムが流通しておらず、知識はあっても生産は不可能といったところなのだと理解した。
「天然ゴムとほぼ同等の分子ミクロ構造の規則性が達成できる合成ゴムが作れるならそうしている。」
「··········································。」
クリスが何を言っているのかイマイチ理解はできないが、とりあえず難しいようだった。
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