第3章 絆 「クリストファー・コーヴェル⑦」
「異世界に飛ばされて、神殺しという幻想を持つとはな···。」
「······································。」
ダメだ。
異世界に来てまで、コイツの性根は科学者そのものだった。
転生という形でこちらの世界にどっぷりと浸かっているはずなのに、思考自体に変化はないようだ。
家族にはさぞ変人として遠巻きにされたことだろう。
いや···それは元の世界でも似たようなものだった。
「言い方を変えるぞ。この世界で最強の武器を作ってくれ。」
違う攻め方をするしかないだろう。
コイツは科学者らしく、自尊心や自身の研究開発で積み重ねた知識に誇りを持っている。それを刺激するのが一番だった。
「···最強の定義というのは様々だ。どういったものを言っているのだ。」
「ステビア・イールリッヒでも、クリストファー・コーヴェルのどちらでもかまわない。その名を歴史に刻むようなものを作れば良い。」
「歴史···歴史だと?」
「そうだ。前の世界では所属していた組織の特性上、どれだけ優れた発明をしても名前が表に出ることはなかった。予算は潤沢にあったかもしれないが、それは開発者冥利という点で満たされることはなかったのではないか?」
「·········································。」
「こちらの世界では、クリスが本気で開発した技術は異端といえるかもしれない。しかし、世界に技術革命をもたらすという点では、前の世界よりもブルーオーシャンが広がっていると言えるだろう。」
ブルーオーシャンとは、マーケティング用語で競争相手のいない未開拓市場のことを指す。
魔法を中心として回るこちらの世界ではあるが、魔道具の発展はそれほど進んでいるわけではない。
理由は明確だ。
魔石を動力にしているとはいえ、その開発には一定以上の技術と、斬新な発想力が必要となる。
必要に迫られてというのならともかく、こちらでは新しい何かを考案するという意識が薄い。
それは、教科書通りの魔法術式は覚えようとするが、新たな術式の開発をしようとはしない風潮が影響しているのかもしれなかった。
「確かに···魅力的な提案だ。しかし、君は大量殺戮兵器などには否定的なのではなかったのか?最強の武器というのは、そういったものだと思うが···。」
「望むのは、広域的な破壊を目指す物じゃない。一点突破の破壊力が欲しい。」
「それが神殺しの必須条件というわけか···。なるほど、そういったものだと、動力や構造的に様々な技術に流用できるかもしれないな。」
「戦争の道具を広い範囲で供給するような事態は避けたい。開発した武器は、俺にしか使用できないようなプロテクトが欲しい。」
「ふむ···個人的には、技術の発展には戦争への流用は不可欠だと思うが。まあ、君がモニターとして意見をくれるのであれば、それはそれでかまわないが。」
「その方向で頼む。」
どうやら、望む方向でクリスの意欲を誘導できたようだ。
「それにしても、君はそれを使って何を成し遂げる気だ?世界でも掌握するつもりなのか?」
「そんなものには興味がない。むしろ煩わしいだけだ。俺は、普通の人間らしい暮らしがしたい。そのための障害を排除するために必要なだけだ。」
「君らしいと言えば、そうなのかもしれないな。改めて思うが、エージェントなどに適性があるとは思えないな。」
クリスの言葉は、俺の気持ちの代弁とも言えるかもしれなかった。
俺は道を誤った。
それは望んで歩んだものではないが、否定すらしなかったものだと言えるのだった。
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