109話 大切な居場所①
治療院でシャワーを浴びてから傷の手当てを受けた。
体の状態を見て回復の早さに驚かれたので、入院は必要ないと言って自宅に戻った。
睡眠をしっかり取ったので体調は悪くない。それよりもお腹が空いていた。
「こんばんは。」
服を着替えてから1階のレストランに顔を出す。
「タイガさん!?大丈夫だったんですか?」
ターニャが俺を見て心配そうに声をかけてきた。
「ん、何が?」
「行方不明になったと聞きました。」
「あ~、大丈夫。」
ニッコリと笑ってスタミナがつきそうなものを注文した。
スタミナと言えば、肉、ニンニクだよね。
ほうれん草とガーリックのパスタ、オニオングラタンスープ、牛肉のシチュー、それにガーリックトースト。
「めっちゃうまい」
今日は1日あまり食事を取っていなかった。かきこみたくなるくらいに空腹だったが、胃がすぐに一杯になるのでゆっくりと食べるように意識する。
「スレイヤーのお仕事は大変そうですね。」
ターニャが何となくさびしそうに話すので前の席を勧めた。
「美容師の仕事は順調?」
食事と会話を楽しみ、2時間後に自分の部屋へと戻った。
階段を上がると部屋のドアの前でリルが待っていた。
「リル?」
「治療院で入院をせずに帰ったって聞いたから来てみたの。」
怒ったような顔をしていた。
「良かったらお茶でも飲んで行く?」
少し考えた後、リルは無言で頷いた。
自分用にコーヒー、リルには紅茶を入れた。ソファをリルに勧め、俺はベッドに腰かける。
「心配したんだから···。」
とがめるような、泣きそうな、そんな表情。
「ごめん。」
「どうしてあの場所に行ったの?」
「何か見落としがないか探るために行った。」
じっと見つめてくる。
なんとなくだが、何かを怖がっているような表情だ。
「···帰りたいの?」
「元の世界に?」
こくんっとうなずく。
「それはないよ。俺はここが気に入ってるから。」
安心した顔。
何かちょっと感動した。
「良かった。あなたがいなくなるとみんなが寂しがるから···。」
「リルも?」
「うん···。」
耳まで真っ赤になっていた。
普段は妖艶で理知的な雰囲気だけど、今日のリルはかわいさ全開だった。
抱きしめてキスでもしたらどうなるだろうと考えたが、めっちゃガーリックを食った後なのを思い出した。
ああ、ヤバい。
キスなんかしたら絶対臭いって言われる。
やめておこう。
「ありがとう。」
そう言うと、リルがはにかむような笑顔を見せてきた。




