第3章 絆 「マルガレーテ②」
「安心してください。あなたがこれから先、私に干渉しないと約束いただけるのであれば、過去のことは水に流しても良いと思っています。」
先ほどまでとは違い、マルガレーテの表情には笑みが浮かんでいた。
ただ、その瞳には感情はなく、まるで氷のような冷たさを伴っている。
「···断ると言ったら、どうするつもりだ?」
激しくなった動悸に苦しさを感じながらも、自らの立場やプライドを思えば簡単に引き下がることはできない。キャロライン公爵は無理にでも自分を奮い立たせながら、マルガレーテを諌めようとした。
ヒュッ!
風を切る音を聞いたキャロライン公爵の喉には、マルガレーテが抜いた剣が突きつけられていた。
「!?」
視認できない速度での抜剣。
そして、その剣先からは、マルガレーテの本気の殺意が伝わってきていた。
「勘違いしないでください。これは嘆願ではなく提案です。あなたの答えがどちらでも、一向に構いません。」
淡々と話すマルガレーテの瞳を見たキャロライン公爵は、すべてを悟ることになる。
自分がそうであるように、マルガレーテもまた、父親である自分を物程度にしか思っていないことに。
意に添わない返答であれば、マルガレーテは躊躇いもなく自分の首をはねるであろう。
キャロライン公爵は、無意識に膝を床に落としていた。
過去に感じたことのある自分の娘への恐怖が、今再び蘇ってきてしまったのだ。
「···その反応は、提案を受け入れたと見なします。一両日中に屋敷を出るつもりですので、その後はキャロライン家から除名をしていただいてもかまいません。」
そう言ったマルガレーテは、一方的に話を終わらせて踵を返した。
あの男か?
あの男がマルガレーテを誑かしたのか?
床に膝を落としたままのキャロライン公爵は、震える体をそのままに、事の経緯について思考を巡らせた。
怒りや混乱などといった感情が身を包むが、打開策がないかの検討は怠らない。
このままマルガレーテがキャロライン家を離れてしまえば、これまでに自らが築いたものの一角が崩壊しかねなかった。
だが、今となっては、マルガレーテに意見できる者などいようはずがない。
悪魔との闘争での功績により、彼女の立場はキャロライン家とは関係なく、侵し難いものとなってしまっている。
では、今回の離反劇の要因と思える男に対して、何かの謀を行うことは可能か?
·······································。
マルガレーテを誑かした張本人とて、すでにこの国の救世主のような立場にあった。
結局、キャロライン公爵は無駄な足掻きであるとは感じながらも、国王にマルガレーテを諭してもらう以外の策を見い出せなかった。
不本意ではあるが、国の意向として彼女に枷をかけてもらうしかない。
それとても、低い可能性に過ぎなかったのだが···。
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