第3章 絆 「悪魔王⑮」
「マルガレーテ、君の力が必要だ。俺に力を貸してくれないか?」
タイガのその一言に、マルガレーテの思考は一瞬停止した。
戦いの中で、背中を預けられる唯一の存在。
生まれながら絶対的強者としての素質を持ち、四方の守護者である黒虎スワルトゥルとの出会いで、その素養を開花させた比類なき力。
それが彼女をさらに孤独にし、他者を見下すような奢りを邁進させた。
同じ人間であろうと、自分に近寄ってくる者たちは何らかの下心しか持たない烏合の衆。
そういった思考が常に頭を支配し、直接的な言葉では出さなかったものの、心のうちでは嘲り、嫌悪した。
だが、一番忌み嫌っていたのは、そんな自分自身だったとマルガレーテは自覚していた。
人を嫌い、心に壁を作って寄せ付けない。
自ら歩み寄らず、理解しようともしない自分を卑下した。
そんな自分の凍りついた心が溶けることなど、永遠に来ないのではないだろうかという不安に苛まれ、眠れない夜を過ごしたことも数えきれないほどである。
あの、タイガとの模擬戦で滅茶苦茶にされるまでは···。
闘いの中で策に呑まれ、汚物まみれにされた。
知略や経験で敗けただけで、武芸や魔法で敗けた訳ではないと、言い訳をするのは容易かった。
しかし、あれが自分の中にあった永久凍土に陽をあててくれたのだと考えることができた。
物事をシンプルに捉えれば、屈辱以外の何物でもない。
あのような策で、勝ちをもぎ取るような輩は死んでしまえば良いとも思った。
すべては、母と慕うスワルトゥルの一言だった。
「内容はともかく、奢ったな。どんな奇策であれ、術中にはまったのはマルガレーテの慢心が原因だ。奴は強い。武力以上に、心が何者に対しても屈しない。あのような手段をとった奴を許す必要はないが、なぜ敗けたのかは奴を見ていればわかるだろう。」
最初は母が何を言っているのか、理解ができなかった。
卑怯な手段を使われたとは思わない。母の言葉通り、膝を屈したのは自らの慢心が原因であるとも理解ができた。
タイガ・シオタという男の強さとは何なのか?
理屈ではわからない何かがあった。
そんな彼を見ていろと母は言う。
マルガレーテは、初めて人に興味を持つことになった。
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