101話 死闘④
自分よりも強い相手と闘ったことは何度もある。
その度に死力を尽くす。
闘いに敗けるのは良いが、勝負には必ず勝つのがエージェントとしての本懐だ。
策略、謀略など手段は問わない。
死んだら何も残らないが、生きてる限り何度でも、勝つまで闘う。
それがエージェントだ。
これまでの攻防は正攻法。
本番はこれからだ。
木と木の間を縫って魔族と一定の間合いを取る。
死角に入った時に右手の伸縮式警棒の先を木の幹に押しつけて最短の長さまで縮めた。
木の影から出た瞬間に魔族との距離を詰めて左の警棒で剣の腹を弾き、踏み込んで右手を振るう。
カキィーン!
伸縮式警棒が軽快な音とともに伸びて魔族の左肩を打った。
「ぐっ!」
優れた動体視力が仇となる。
突如伸びて間合いを詰めた伸縮式警棒の打撃点を見誤った魔族が初めてのダメージを追う。
距離を取り、再び木々の死角に入った。
追撃してきた魔族に向けて木にとまっていた甲虫を警棒で打ち飛ばした。甲虫は高速で魔族の顔にあたり、視界を遮る。
裏拳の要領で左手の警棒をこめかみに打ち込み、その回転を利用して右の警棒を剣を持つ魔族の右手首に叩き込んだ。
ゴシャッ!
骨が砕けて剣を落とした魔族の顔面に返す右の警棒を打ち込む。
「ぐぅぁぁぁっ!」
打撃だけでは致命傷は難しい。
警棒を放し、蒼龍の柄を握る。
抜刀!
袈裟斬りに魔族を両断した。
至近距離での攻防は、ほんのわずかな出来事が勝敗をわけたりする。
魔族は俺よりも強く、闘いを楽しんでいた。
それは油断といえる。
俺がこれまでに自分よりも強い相手に勝ってこれたのは、その油断につけこみ、勝機を呼び込んできたからに他ならない。
今回も同様だ。
魔族はオレが必死に闘う姿に勘違いをしていた。
闘いを楽しむ者は力でもって相手を叩き潰すことを好む。身体能力と身につけた武技のみによる正攻法の闘いを魔族は潜在的な意識の中で望んでいたのだ。
だから俺はそれに応えてやった。
突然の変則的な攻撃に対応ができなくなるまでの意識付けとして。
せこいとか卑怯と言う奴はただの弱者。
生きてこそ···勝負に勝ってこそ次があるのだ。




