99話 死闘②
調子に乗っていた訳ではない。
ただ、この世界に来てからの戦闘で苦戦することがなかった。
魔法を主体として闘うスレイヤーや魔族達とばかりを相手にしていたことが、自分の意識の中に芽生えさせてはいけない油断を作ってしまったのかもしれない。
魔法が効かないアドバンテージが今回の相手には通用しなかった。
卓越した剣術と圧倒的な身体能力で攻め立ててくる魔族に何度目かの斬撃をくらい、全身がすでに赤く染まっていた。
深い傷はないが、鋼糸を編み込んだコートが斬り裂かれ、俺の皮膚の何ヵ所かが斬り開かれていた。
最初に風撃無双を放った時に奴は手に持った剣で簡単に攻撃を相殺した。
上空からの斬撃。
地上からの攻撃よりも体重と引力が加担し、一撃一撃が重たかった。斬撃のキレもこれまでの相手とは別格だ。
蒼龍で撃ち合うには相手が悪すぎた。
分厚い両刃の剣。
バスタードソード。
回避中に岩を叩き割った威力を見ると、大太刀とは言え刀の部類ではすぐに刃こぼれし、折れてしまうだろう。
俺は蒼龍を鞘に納めて警棒で対峙することを強いられていた。
襲い来る斬撃を軌道を逸らせては避ける。
バスタードソードの腹を警棒で叩くだけでも腕に伝わる衝撃は半端ではない。
このままでは出血と腕の痺れでいずれ敗ける。
俺は攻撃の間隙を縫って逃走した。
全力で走る俺に同等のスピードで追走する魔族。
木の生い茂る中に入り、木々の間を縫うように走る。
鬱蒼とした空間までたどり着くと反転し、魔族が追いついてくるのを待った。
苦戦をするのであれば状況を変えれば良いだけだ。相手の得意なフィールドにつきあってやる必要はない。
「勝てぬと思って逃走したかと思ったが、頭が回るようだな人間。」
低い声音で魔族が話しかけてきた。
全高3~4メートルの木々が生い茂る空間。
枝葉が障害となり飛行は困難。かつ、長尺の剣では木々の間が狭く、振り回すのが厳しいと条件が揃っている。
「簡単に殺られるほどバカじゃないからな。」
「ククク、余裕じゃないか。この程度が我の障害になると思うか?」
「さあ、どうだろうな。」