9話 異世界には異世界の脅威があった⑤
倒れた魔族は動かない。
脳へ与えた振動で意識を完全に刈り取ったようだ。
今の戦いで学べたことは少なくない。
すばやく頭を整理するが、魔法には詠唱が必要のようだ。そして、魔族は強靭な肉体をしているが、攻略法は対人戦と何ら変わらなかった。ただし、対等に戦える身体能力が不可欠ではある。
また、魔族の放つオーラは相手の魔力を媒介にして精神干渉する。まあ、幸いにも俺には効かなかったのだが。
さらに、個々に扱える魔法には属性があるようだ。アッシュたちはそれぞれが同じ属性の魔法ばかりを連発していた。
俺に関していえば、魔族やアッシュの炎撃に熱は感じられなかった。魔法とはそういうものなのか、それとも別の理由があるのか。精神干渉が無効だったことと合わせて興味深い。
そんなふうに頭を整理していると、金髪のおっさんが近づいてきていきなり魔族にトドメをさした。
「ちゃんと息の根を止めとかなきゃ、足下をすくわれるぜ。」
「ああ、悪い。」
と答えたものの・・・いやいや、おっさんよ。あんた、今まで何の役にも立っていないよな。
「タイガ、ケガはないか?」
アッシュが心配そうに聞いてきたが、眼には面白がるような光が宿っていた。
「首に血が滲んでる。ラルフ、治してあげて。」
アッシュの妹がそう言ってきた。
瞳が大きく、白い肌をしている。やっぱり、かわいい。少女と大人の間という感じか。
ああ、言っておくが俺はロリコンじゃないぞ。
「わかった、嬢ちゃん。」
金髪のおっさんに嬢ちゃんと言われてアッシュの妹はムッと頬を膨らませた。子供扱いされるのが嫌なのだろう。プクッと膨らませた顔がまたかわいかった。
ラルフは何やら呟きながら、こちらに手をかざす。
すぐに仄かな光が放たれた。
んん?
「あ、あれ?」
おっさんが厳つい顔面に似合わない表情をして驚いている。
「ねぇ、真面目にやってる?」
アッシュの妹が何か怒っている。
「あ、ああ。ちゃんとヒールをかけたぞ。」
そっと首に手をやるが、魔族の爪痕部分がひりついた。
「「「「・・・・・・・・・。」」」」
みんな無言だ。
「もしかして、魔法が効かないの?」
妖艶なお姉さんが驚いた顔をしている。
「だめだよ。眉間にシワを寄せたら、せっかくの美貌が台無しだよ」とでも言いたかったが、初対面なので空気を読むことにした。