No.1 夢に見た世界
意識が深い闇から浮上する。
重たい瞼をうっすらと開くとやけに眩しい光に少しだけ目が眩んだ。
脳にはそれが覚醒の合図だったようで、
沈んでいた意識は一気に破裂した。
しかし、背中に当たる温かいふかふかの感触が心地よく
再び意識は沈みかけ瞼を閉じる。
そして、寝返りを打とうとしたんだけど…
全然体が思うように動いてくれない。どうして?
まるで全身が鉛になってしまったかのように動かない。
辛うじて動くのは、手と足と首のみ。
これは困った。
寝ている間、私にいったい何があったのだろう?
とりあえず、状況を確認するために
目を再び開けると、そこは見慣れない部屋だった。
ぐるりと部屋の中を見回す。
壁は薄紫を貴重としたシンプルなお花の壁紙で、
床はフローリング…?そして、子供用の玩具?かな?
見たこと無い生物のぬいぐるみが沢山転がっている。
その他には、白い勉強机とセットの椅子が置いてあるだけ。
「ば、ぶ…?(え、なにここ。)」
んっ??!!!!!
今、出ていった声。
まるで、生まれたての赤ちゃんみたいだ。
確認するように手を目の前に出してみた。
もみじのようにちっちゃい手。
その手で顔を触ってみる。
まんまるで、ぷにぷにで…たまご肌。
「ばっぶ…。(素晴らしい…。)」
いや、違う、そうじゃない!
これは一大事だ。
ねぇ…これって俗に言う“転生”ってやつじゃない?
「ばぶー!!(やったぁぁあああ!!!!!!)」
私は、天高く両手をあげた。
私は夢にまで見た転生をしたのだ。
今、日本では空前絶後の転生物語ブーム。
でも、主人公はいつも男性ばっかりで…
性別♀の私には、どこか感情移入しずらかった。
でも、そんな私も異世界転生モノは大好きだったし、憧れても居た。
異世界に行ってみたいと想いを馳せる男性達と同じように、
私も異世界に行ってみたいと願ってた。
それが、まさか叶うなんて…
生きてて本当によかった!!
私はハートを周りに飛ばす勢いで、「きゃっきゃっ」と喜ぶ。
なんか、日本語喋ってるつもりなのに
勝手に赤ちゃん語に変換されるのは、ホント不思議である。
と、部屋の扉が開いて、中にめっちゃくちゃ美人なお姉さんが入ってくる。
その女性は、ベルベット生地の西洋風のドレスを着ていて
真っ白いシンプルなエプロンをしている、まさにファンタジーで王道な格好。
いいね、いいね!
そして、優しそうな顔立ちの物凄い美人は、恐らくお母さんだと思う。
西洋人よりだけど、日本と西洋のハーフの人に一番近い顔立ちで
何より、豊満なボディは世の男性たちを幾重にも魅了して来たと思う。
髪色は、白に近い薄紫。睫も髪と同じ色。
どこか神秘的で、近づけば近づくほど良い香りがする。
百合みたいな良い香り。
しかも、垂れ目でさ、胸が大きくってさ、口元に黒子があってさ!これ、何のギャルゲー…?
お母さん、こんな美人ってことは私も将来有望じゃない?
「サクラ、起きたの?」
優しく鈴を揺すった時みたいな、落ち着く声で話しかけられ
そっ、と私の頭を撫でる。
わあ、…指も細くて長くって綺麗な手。
でも、こんなに綺麗ってことは労働してる手ではないから
貴族のお家かなんかなのかな…?
「ばぶぅ…(撫でられると眠くなる…)」
撫でられる心地良さに身を任せていれば
眠気は直ぐにやってきて、赤ん坊の私は
ゆっくりと眠りに落ちていく。
…とりあえず、お休み。