第五話 対局開始!
ピッという電子音と共に対局が始まる。
俺は肩の力を抜く。こういう慣れない環境に飲まれてしまっては、本領を発揮することはできない。これはテニスで培った経験だ。
俺は7七の地点の歩をぎこちない手付きで持ち上げるとそっと7六の地点に置く。
パチッ……ん? 2手目で長考? 俺はチラっと先輩の方を見る。
「時計、押し忘れてるよ。」
あ、そうか。俺は急いでタンッとたたく。
「大会だと教えてくれないから気を付けてね。」
「はい。」
先輩は俺の返事に頷いてから、8四歩と返した。
将棋には大きく分けて二つの戦法があるとじいちゃんから教わった。
飛車を定位置に置いたまま戦う「居飛車」と飛車を動かして戦う「振り飛車」
じいちゃんは居飛車を指して俺が振り飛車を指すというのがいつものパターンだった。
といっても、俺は振り飛車の中でも二つしか知らない。俺は得意な方を選んだ。
6六歩、3四歩、7八銀、8五歩、7七角、6二銀、6八飛
「さっきの対局を見てて、四間飛車を採用するとは。強気だね。」
俺は最も得意(2個の中で)とする四間飛車を採用した。
以下4二玉、4八玉、3二玉、3八玉、5四歩、2八玉、5二金右、3八銀
ここら辺は駒組で定跡として決まっているからお互い時間を使わない。
先輩は少し悩んで7四歩。
この手の意味は簡単だ。振り飛車側に居飛車側が急戦を仕掛けようとしているということだ。もし持久戦を志向するなら3三角と上がる手などがある。後輩相手だからなのか、それともこっちの方が得意なのか。
急戦は一手一手の重みがある。故に早く決着がつきやすいとじいちゃんも言っていた。
俺の指し手も慎重になる。
6七銀、4二銀、1六歩、1四歩の端の付き合いを入れてからの5八金左、5三銀左、4六歩、6四銀。
これは… じいちゃんと最も多く指した局面だ。この後の進行も覚えてる。
5六歩、4二金上、9八香、7五歩
ここでは、振り飛車の必着がある。