第三話 傍目八目
約2年ぶりの更新となってしまいました。第一、二話共に少し修正を加えてこれから連載を続けていけたらと思います。何分初心者なもので文章もとても拙いものですが、趣味の一環としていければ良いなと思っています。
先輩がそう言って指した手は5五銀。
同銀、同歩、同角、6六歩と桂を捕獲できれば先手が良いのか…
とはいえ、後手も5七銀がある。同金、同桂成、同角、6七金打だと先手も方針が見えづらくなってくる。
案の定、局面はスラスラと5七銀まで進む。チャラ男先輩は手を止めここで少考。自分も一緒になって読みを深めようとする。しかし、しばらく指してないため直線的な読みしかできない。どう読んでも一方的な展開になってしまうのだ。チャラ男先輩は前屈みだった姿勢を直し背筋を伸ばすと66の地点の歩を6五に進める。6八銀成、同金と進む。
なるほど桂金と角の交換か。6八金の形で陣形が引き締まった感じがする。
後手の真面目先輩は手拍子に3九角打。これを狙ってたみたいだけど悪手な気がする。先手の5八飛と回る手は待望の手だ。
「あ、そっか。」5八飛と回られて初めて良い手ではないと気付いたようだ。真面目先輩は首を捻って4四角。これもいい手とは言えない。5五銀、3五角、6四歩、6二金、5四歩、同歩、同銀、8四角成。
結構大差になってしまった。5五桂、7三馬、6三歩成…以下十数手進む。
この手を見て真面目先輩が投了。粘るのはキツいか。
二人だけの振り返りが行われる。気になる手もあったが後輩が口出しするのはまだ早い気がした。同じ部活で付き合いも長いのかお互い気兼ねなく、ああだこうだと言い合っている。見た感じはチャラ男先輩の方が真面目先輩よりも2段階くらい上な気がするが対局後の振り返りに将棋の強い弱いは関係ないようだ。
一通りそれを終えるとチャラ男先輩が俺の方に顔を向ける。
「じゃあ、指そうか。」
2回連続で疲れないのだろうか。自分がじいちゃんとやった時は一局終わると必ずジュースとお菓子を用意してくれていた。勝ったらご褒美があったそうだが、それがなんだか俺は知らない。
真面目先輩は駒を初期位置に戻して席を立つ。
「どうぞ。」と俺に座るよう促して、「どうも、ありがとうございます。」といって俺はそれに応じた。
先輩は歩を5枚集めると何やらそれを手の中で振って混ぜているようだ。
「何をしているんですか。」
「振り駒だよ。中継とかで見たことない?」
「中継すら見たことないです。」
一瞬怪訝そうな顔をしたがすぐに戻して、そう。と呟く。
ジャラっと5枚の歩がまるでばら撒くかのように盤上に放たれた。