第二話 棋匠大附属高校将棋部
「いらっしゃい。」
その人は満面の笑みでこっちを向いてきた。
「え、えっと」
いきなりキョドる。やばいコミュ障だと思われる。陰キャってわけじゃないけど、初めて会った人とは話しにくい。いわゆる人見知りってやつだ。そんなことを心の中で一人で弁明していると、向こうの方から話しかけてきた。
「部活見学でしょ。そこに座って。」
この感じは…部長さんかな? 眼鏡を掛けているから眼鏡先輩ということで。俺は先輩に言われた通り、近くにあった座布団の上に座った。
「えーと、どうしようかな。」
先輩は辺りを一周ぐるっと見回す。
「そこが終わったらどっちかと指して。」と一組の対局を指差した。
「イシカワとアイカワよろしく。」そう言うと、一人の先輩がコクンと頷く。
どっちがイシカワでどっちがアイカワ?
一人は眼鏡を掛けていて、いかにも真面目という感じ。
一方は短髪でシャツははだけており、チャラい感じ。この人ホントに将棋指せるの? いかんいかん。人は見かけで判断してはいけない。
眼鏡先輩があの感じで命令するっていうことは俺の先輩にあたるのか。うーん、分からないから真面目先輩とチャラ男先輩でいいかな。うん。することもないから、俺は真面目先輩の後ろに立って観戦をした。
パシッ
いかにもな局面で全然互角だと思う。
じばらく将棋から離れてたから最新型は分からないけど、この形はじいちゃんとも指したことがある。
チャラ男先輩は少し首を捻って5九角。これは2六と3七への転換を目指しているのか…
うーん。結構指し手が難しい。具体的には3七もしくは2六への転換のメリットは何か?
手厚く指すなら6八銀とか6八金だけどあんまり好ましい形とは言えない。最初から固めたかったのであれば7八金と指せば銀を引いた形が美しい形のような、
それを踏まえると…7八飛とかかな?
後手の8四歩に対して7八飛とかなら良いタイミングな気がする。
読んだ通り眼鏡先輩は8四歩。 そうそうそれで7八飛で…
パシッ
ふぇ? 36が先じゃいいことなくない?83銀と上がられちゃったら78飛の効果が薄い。
先輩は少し考えて83銀と上がった。
するとチャラ男先輩が「まぁ、そうだわな。」と言って、強く駒を打ちつけた。
96歩
ここで手待ち!?動揺する俺をよそに眼鏡先輩は72金と上がる。
先手がノータイムで応じると、後手も負けんと返す。指し手の間隔が一気に狭まった。
えぇ、ここはもうちょっと時間を使った方がいい局面なんじゃないでしょうか…
68銀、85歩、77銀、22飛。
後手は飛車の転回を目指しているけど、一気に先手陣が堅くなった気がする。85歩が緩手という感じ。
チャラ男先輩は頭をポリポリと掻き、「これで充分だろ。」
あぁ、もう意味が分かりませぬ。独創性高すぎ。
これにはさすがの眼鏡先輩も首を傾げ、44角と指した。次に33桂とさして攻撃体制を敷くというわけね。チャラ男先輩もそれを防ぐために68角。以下33桂、37桂、65歩、同歩、同桂、66銀、64歩と進む。
これは無理攻めっぽい、64歩と支えている時点で、先手にかなり分がある。しかも84の傷がある。桂を噛みちぎっても先手がよさそう。もうちょっと手順を考えた方が…そんなことを考えていると、
「一気に捲るか。」
パシッ