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12話『助け船』

 試練の合格を諦め、目の前の冒険を優先すると決めた。

 八層まで世話になったフレデリカと別れ、暫くが経過した頃――。


「――よし。準備出来た」


 草むらに腰を下ろしていた俺は、ゆっくりと立ち上がる。

 幸い、八層は龍の他に魔物がいないようだった。お陰で暫くの間、体力の回復に専念することが出来た。初層から八層までの間、戦闘は殆どフレデリカに負担して貰っていたが、それでも体力の消耗は決して少なくない。


「出来れば、魔力も回復させたかったんだが……」


 体力と同じように、魔術を使うための燃料、魔力にも消耗と回復の概念がある。魔力も時間が経つにつれて自然に回復するものだ。


 今までなら、このくらい休んでいれば、魔力も十分に回復していた。

 しかし、今回。どうやら俺は、自分でも分からないほど大量の魔力を消費してしまったようだ。火龍の囮を任された時、魔力を相当解放してしまったらしい。休んでも休んでも、一向に完全回復しない魔力に、俺自身戸惑っている。


 時間を掛けすぎると、また扉から龍が出てくるかもしれない。

 龍が扉の中でどう過ごしているかは不明だが、それを確認しないまま、時間を掛け過ぎるのは危険だ。魔力はまだ完全には回復していないが、そろそろ探索を始めようと思う。


「……遺書、用意して良かったな」


 粟立つ肌を摩り、呟いた。

 出来れば生還したいものだが、それが適わないかもしれないことくらい、理解していた。


「さあ――いざ行かん! 未踏の地へ!」

「何処へ行くんだ?」


 隠し扉へ一歩を踏み出そうとした直後、真後ろから声が掛かった。

 思わず転びそうになった俺は、辛うじて体勢を整え、振り返る。


「キース……あと、マスターも」

「おう、久しぶりじゃねぇか」

「お互い無事で何よりだね」


 そこには土色の短髪をした筋骨隆々の男キースと、黒髪で長身痩躯の男ギルドマスターがいた。


「早ぇな。俺らものんびりしてたわけじゃねぇんだが……」


 そう言いつつ、キースは一頻り辺りを見渡して、


「で、なんでてめぇは、一人なんだ?」


 繰り出されたその問いに、俺は複雑な表情を浮かべた。

 二人は、俺とフレデリカが共に探索を行っていたことを知っている。この短期間に一方の姿が消えているのだから、当然、疑問に思うだろう。


「……フレデリカとは解散した」

「解散?」

「簡単に言うと、見解の相違だ」


 この層で起きたことを、二人に説明する。

 個人的感情を抜きにして、簡潔に伝えたつもりだったが、全てを語り終えたところで、キースは舌打ちして苛立ちを露わにした。


「成る程。……そいつ、最低だな」

「……いや。元々、俺とフレデリカは、利害関係が一致していただけだ。寧ろ、俺はフレデリカのお陰でここまで来られたんだから、今度は俺が、フレデリカの助けになるべきだったのかもしれない」

「利害関係の一致なら、恩を感じる必要もねぇだろ。最大の問題は、こんなところに薄人を一人で置き去りにすることだぜ。下手したら魔物に食われて、今頃死んじまってるぞ」


 どうもキースにとって、フレデリカの所業は許し難いことだったらしい。逆に俺の方が落ち着いてきた状況だ。


「まあ、聞いた限りじゃあ、打ち合わせ不足なのが問題だよね」


 マスターが言う。


「相手のことを知らないまま協力関係を結ぶと、いつか必ず綻びが生まれる。仲間を作るなら、最低でも目的くらいは共有しておかないとね。今回はそれを怠ったせいで、冒険を目的するシオン君と、試練の合格を目的するフレデリカさんが衝突したんだ」


 マスターの言葉は、すんなりと頭に入った。

 確かに今回の件は、俺とフレデリカの相互理解が足りていなかった点が問題だ。

 正直、フレデリカの目的や行動を、俺は卑怯だとは思っていない。彼女には彼女の行動理念がある。目的意識が高いからこその、手段を選ばない行動なのだろう。それは、冒険のためなら命を捨てても構わないという俺の意思と通じる点でもある。


「難しいんですね。仲間を作るのって」

「そうだね。冒険者にとっては永遠の課題かもしれない」


 唇から零れた呟きに、マスターが微笑しながら相槌を打った。

 そこで、ふと。疑問を抱いた。


 ――じゃあ、ガーベラは、どうやって仲間を見定めるんだ?


 ワーニマの迷宮、第十層に到達した人間なら、問答無用で合格なのか? そんな簡単に決めてしまうものなのか? マスターの言う通り、冒険者にとって仲間を作るのは難しく、そして大切なことだ。


 冒険者の肩書きを持つ者には各々の目的がある。冒険そのものを目的とする俺のような者もいれば、フレデリカのように、別の目的を果たすための手段として、冒険者の道を選んだ者もいる。ガーベラが仲間を作るならば、最低でも目的は把握しようとするのではないか?


 ――もしかして、何処かで俺たちを、見ていたのか?

 ――試練の間だけではない。試練が始まる前から、俺たちを観察していた?


 ガーベラの人間は、ずっと前から身近に潜んでいたのかもしれない。

 普段、俺たちを影から観察していた。そして、その観察によって選ばれた人間たちが、この試練を受けることが出来た。辻褄は合う。なら、一体、誰が? 俺たちの知る誰かが、ガーベラの人間である可能性は高い。


 ――今、考えるのは止そう。


 もう、どうでもいいことだ。

 俺は、ガーベラの仲間に入ることよりも、目の前の冒険を優先したのだ。

 ガーベラはどうやって仲間を見定めるつもりなのか。それは、実際にガーベラが誰かを仲間に引き入れた後、じっくりと考えることにしよう。


「ありがとうございます、勉強になりました。……それじゃあ、俺はここで」


 マスターに頭を下げ、それから一応、キースにも会釈する。

 そして、隠し扉の方へ足を向けた。


「おい、まさかてめぇ、行く気か」


 歩き出そうとする俺に、キースが声を掛ける。


「そん中には火龍がいるんだろ? てめぇじゃ勝ち目はねぇぞ」

「別に勝つ必要はない。俺はただ、この中に何があるのか知りたいだけだ」


 そう言うと、キースとマスターが共に目を丸めた。

 やがて、キースが小さく笑う。


「しゃーねぇな。手伝ってやるよ」


 短い髪をわしゃわしゃと掻いて、キースが言う。

 流石に俺は、そんなキースの態度に疑問を抱いた。


「手伝うって、なんでお前が、俺を……? まさか、人目のつかないところで、金をゆする気じゃ」

「ゆすらねぇよ! てめぇ、人の好意を何だと思ってんだ!」

「じゃあ、なんで協力するんだよ」


 マスターが言ったことを思い出す。仲間を作るには、最低でも目的を共有するべきだ。

 俺は、キースが何故、俺に協力する姿勢を見せるのか知らなくてはならない。


「だから、その先に、あるかもしれねぇだろ? 冒険者でしか、手に入らないものがよ」

「……はぁ?」


 一瞬、何のことを言っているのか、サッパリ分からなかった。

 冒険者にしか手に入らないもの。それは、俺がかつて、冒険者ギルドで口にした台詞だ。

 無言でキースを睨む俺に、マスターが笑い声を発した。


「キースはね、先日、君がガーベラの男に告げたことを気に入ってるんだよ」

「おい、てめぇ! 言うんじゃねぇ!」

「この男はここ暫く、冒険者として燻っていたからね。そんな最中、君の言葉は彼にとっての発破になったらしい。冒険者でしか手に入らないもの……うん、凄くいい響きだ。確かにこれは、僕も求めたくなる。だから、どうか同行を認めてくれると有り難い。勿論、僕もついて行くよ」


 今度はマスターまで、同行の許可を求めてきた。


「でも、二人とも、ガーベラに入りたいんじゃ……」

「それは君も同じだろう? 僕たちも、君と同じものを求めているだけだ」


 そう言って、マスターは笑う。

 少し、涙ぐみそうになった。溢れ出す感情を抑え、俺は首を縦に振る。


「……分かりました。それでは、よろしくお願いします」


 ここに三人。

 冒険のために、命を賭ける馬鹿がいた。


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