愛のプレゼント
勇気を振り絞って目を開けると、そこはまるで天界のダンスホールだった。
美しい人魚がゆややかなハープを奏で、鮮やかな熱帯魚の透き通る歌声が心に響き渡る。
サンゴやワカメは、村で見たどんな社交ダンスよりなめらかに、かつ無駄のない動きをしている。
「うわぁ……! 海って、こんなにキレイところだったんだ」
いつもいじられ役の僕にこんな煌びやかな場所は似合わないと敬遠していたけれど、僕みたいなヤツでも、海は歓迎してくれている。
なによりもそのことが嬉しくて嬉しくて、いままで避けてきた海という存在が一気に好きになった。
「どうだヨネちゃん、海は。俺が言ったとおり、べらキレイだろう」
「うん! 僕、こんなに海が素晴らしいものだとは思わなかった! もっと早く来ればよかったって思うよ」
「お、そうかい。んじゃ、また来ねえとな。とりあえず今日は早めに目当てを探すぜ」
そうだ、僕はここに目的があって来たんだった。
僕はこの気弱な性格のせいで、昔からずっといじられ役ばかりしてきた。そのせいかどうかわからないけど、もう二十歳半ばというのに、よい相手すら見つからず、未婚。お見合いをしようにも、こんな気弱な僕じゃダメだ、と、どこも掛け合ってくれなかった。
そしたら村長がそんな僕を見かねたのか、海の中にある幸運のお守りを取ってきたらお見合いをかけあやってやると言ってくれた。
「どこだ〜、二枚ひれの人魚さ〜ん」
その幸運のお守りとは、本来、尾ひれが一枚で構成されている人魚の中で、ごく稀に尾ひれが二枚ある人魚がいるという。その人魚の唾液が幸運のお守りといわれている。
もし二枚ひれの人魚を見つけたら経緯を告白し、その人魚の唾液をもらって帰ってくること。
「二枚ひれの人魚さ〜ん。出てきてくださいお願いしま〜す」
そのとき、僕の耳には遠くの方からなにかが聞こえた。
――――――――こっちにきなさい。こっちですよ。さあ、早く――――――――
僕はその声を頼りに、先へ先へ、どんどん深く潜っていった。
気付くと、さっきとは違うなにやらふわふわとした感覚に包まれていることに気付いた。
いつのまにか必死で進んでいたようで、辺りを見渡すと、クラゲやイソギンチャクが歓迎の舞を踊っている。
「はは、すごいや。ありがとう」
「そこのあなた、感心している場合ですか? あなたは用があってここに来たのでしょう」
また同じ声が、今度は近くから聞こえた。
その声の方に振り向くと、絶世の美女………いや、人魚がいた。
「さあ、ここにあなたの真実を告白しなさい」
僕はしばらく言葉が出なかった。
海に潜ったときから夢に夢を重ねている気がして、唖然としていた。
「どうしたのです」
そう言われて、ようやく目的を思い出し、経緯を話した。
「なるほど。では正直なあなたにはこちらをさずけましょう……。決してなくしてはなりませんよ」
そして、それが人生で初めての口づけだった……。
そこから岸に上がるまで、僕はもうなにも覚えていない。
ふたつだけ確かなことは、僕は素晴らしい景色の海に潜ったことと、人魚の唾液――幸運のお守り――を持ち帰ってきたことだった。
神様、人魚様、こんな僕に、こんなにも素晴らしいプレゼントを、ありがとうございました。
作者名:ほっちぃ
の場合は、ほとんどが即興小説からの転載です。