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僕らのゲートボール解説講座

現地への移動は竹中さんの車で約一時間の移動だ。

とりあえずさっきまで着ていたじじいの服やら帽子なんかはトランクに入れた。言うまでもなく、匂いがきつすぎたからだ。現地の手前で、また着替える時間を取ってくれるらしい。正直、二度と着たくないけど。

とりあえず俺が車に乗り込もうとすると、

「残り香」と妹がぼそっとつぶやく。

俺は黙って、自分の上着も脱いでトランクに突っ込む。ヤバッッ。なんか涙出てきちゃった。

気を取り直して、車の後部座席に乗り込む。

「涼しっ。天国だわー。」思わず声が出る。

車の中はエアコンが効いていて、さっきまでの暑さを吹き飛ばしてくれる。ここで俺の悲しみも吹き飛ば……と思ってしまうのは人情だ、許してくれ。

続いて、竹中のおじいさん、妹と乗り込む。妹はちゃっかり助手席に乗る。コイツ、俺から距離をとりにきてやがる。…待てよ。何でこいつも乗ってんだ?

「君たちがメイクしている間にチームの皆に確認したんだけど、変装作戦OKだって。」

車を運転する竹中さんが開口一番に切り出す。

「それは本当に良かったですね。」

ほおを赤らめて嬉しそうに妹が答える。そう言えばコイツさっきから…。いや、まさかな。

「まぁ、何年も一緒にゲートボールやってる友達もいるし、皆ならこの決断を後押ししてくれると思っていたんだよ。」

うん。違反行為を後押しするのもどうかと思うんだが…。

「それとね。かいくん。今更だけど、無理を言ってこの大会に出させてしまって申し訳ない。僕たちはどうしても今年だけは全国大会に行きたいんだ。と言うより、どうしても全国大会に連れて行きたい人がいるんだ。」

そう語る竹中さんの言葉は誠意と感謝であふれていた。

「だからね、この話を引き受けてくれて、僕はとても嬉しかったんだ。今のうちに言わせてほしい。本当にありがとう。本当に…。」

「ハハ、いや。なんか照れくさいですね。」

予想もしなかった俺への感謝の言葉に少し戸惑う。

正直なところ進んで引き受けたわけでもないので、どことなく申し訳ない気持ちもある一方、こんな風にお礼を言われると、やっぱり少し照れくさい。少しだけ、頑張ってみようかなという気持ちにさえなる。まぁ、正直、老人相手に弱冠20歳の俺が戦うわけだから、どう考えたって余裕だけどな!

「ちょっと、お兄ちゃん。もっと他になんか言うことないの?それで、負けたら容赦しないからね。」

妹が助手席から振り返り、俺に、にらみをきかせる。

「ほんとお前は俺に対しての扱いがひどいよな。」

俺の弱みを握ったことで、より一層、ズシズシ言ってくるような気がする。

「ごめん、ごめん。さっきの言葉は別にプレッシャーをかけるつもりじゃなかったんだ。だから、かいくんもいのりちゃんも、気にしないでいいよ。ハハハ。」

とフォローを入れる竹中さん。さすが、俺より3倍近く人生を歩んできただけはある。できた人だ。

「それと…、現地に着く前に最低限のことは話しておきたいんだけど、いいかな?」

「「あっ、はい。」」俺と妹の声がハモる。

「まず、かいくん。一応だけど、ゲートボールのルールは知ってるよね?」

「いや~、正直、小学校のクラブ活動でちょこっとやっただけですから。実際の所、『制限時間内に、自分のボールをスティックで打ちながら、3つのゲートにくぐらせ、最後にピンに当てて、その点数を競う』くらいしか知らないです。」

「えっ、お兄ちゃん、全然知らないじゃん。これだからインドア派は!」

「いや、インドア派は関係ねぇ!」

アウトドア派でもゲートボールのルールはなかなか知らないと思う。それにお前もたいして知ってる訳でもねぇだろ!!

「フフッ、でも大体、そんな感じのルールであってるよ」と少しほほえみながら竹中さんが話す。

「ごめ~ん、妹君。大体合ってたみたいっすわ~。」

俺の言葉に対し、妹が黙る。

こんなことでも、妹にやり返せるのは嬉しい。ざまぁ。

「まぁ、細かいことを言うならば、試合は五対五のチーム戦。制限時間は30分。敵味方かわりばんこに一人ずつ打つ。第1ゲートから順番に、反時計回りに、第3ゲートまで通していくけど、その得点はどれも1点。最後のコート中央のピンは2点。ピンに自分のボールを当てたら、そこであがり。以降、打権はなくなる。最初に全員あがるか、制限時間内にたくさん点をとった方の勝ち。あと、ちょっと付け足すとしたら、第1ゲートはスタートラインにボールを置いて、そこから狙うんだけど、第1ゲートをくぐれなかったり、第1ゲートをくぐってもコートの外に飛び出してしまった場合は、通過したことにはならなくて、、またスタートラインから打ち直しになるから。第1ゲートを通過したら、それ以降は、前回の位置から打つことができるんだけどね。」と、滑舌よく、竹中さんが教えてくれる。

説明長ぇ。でも、まぁ大体は自分の覚えている内容と一致するので理解はできていると思う。…たぶん。

「それと、ゲートボールの作戦上、重要になってくるのが、タッチと打権だね。」と竹中さんの話が続く。

あっ、まだ続くんだ。

「タッチっていうのは自分のボールと他のボールがぶつかること。タッチしたボールがアウトになっていなければ、つまり、コートの外にボールが出ていなければ、スパークという特殊な方法で、そのタッチした相手のボールを動かすことができるんだ。さらに、もう一回余分に自分のボールを打つことができるから、できるならタッチは狙っていきたいよね。ちなみに、スパークは、自分のボールの所にタッチした相手のボールを持ってきて接触させる。そして、自分のボールを動かないようにしっかり踏んで、思いっ切り自分のボールをスティックで打ち、その衝撃で相手のボールを動かすという方法のことだよ。それと、打権っていうのは読んで字のごとく打てる権利のことで、普通は自分の番に1打分の権利しかないけど、ゲートをくぐったり、さっきのように他のボールに当てたりすると、その回数分だけに追加で打てるからこれをうまく使っていくのが重要なんだ。でも、ここで大事なのが、1度タッチしたボールには、再び自分の番が回ってくるまでタッチできないっていうことね。そうじゃないと、何度も無限に打ててしまうからね。とまぁ、こんなかんじかなぁ。」

…うんうん。要するにあれだろ。アレ。え~っと、他のボ-ルに当てたり、ゲートくぐったりすると、余分に打てたりとかするからいろいろお得ってことだろ…。

妹と目が合う。

「クソ兄貴、分かった?っていうか知ってた?」

「いや、余裕だわ。」

ちょっとだけ冷や汗。

ここで、弱いところを見せてしまうと、また、妹が調子に乗りやがる。それにさっき馬鹿にした分も含めてやり返されるに違いない。

「じゃあ、お兄ちゃん、コートから出てアウトになったボールがやっちゃいけないことって何なのかってことも知ってる?」

「………。」しばしの沈黙。

「知ってる??」

「すいませんっっでしたァァ。全然知りませんでしたァァ。」

俺の平謝りに対し、妹がはぁぁと大きなため息をつく。

「これだからお兄ちゃんは!まぁ、いいわ。教えてあげる」

いや、ルール知ってるくらいで何でそんな偉そうなのよ。

「あのねぇ。コートから出てアウトになったボールは、そのボールがコートから出た位置から、コートの中に打つことになるわけだけども、そのときに他のボールに絶対にタッチしちゃいけないの。もし、他のボールにタッチしちゃったら、またアウトボールになってしまうの。他にもゲートを通過したり、ピンに当てたりしても得点にならないとかの制約があるんだけどね。」

ふ~ん。とりあえず妹の説明に適当に相づちを打っておく。

「……っていうか何でお前そんなに知ってんの?」

正直、ゲートボールなんて言うマイナーな競技のルールを知っているお前が恐ろしいわ。

「はァァァァァ!?日本の常識でしょうがァァァァァアア!!」

「いや!!それはねェェェェェエエ!!」

思わず激しくツッコむ。

何でコイツさも当然のことのように話すんだ?あっったまいっとるがぁ。

「いやいや、待って。お兄ちゃん。それ本気で言ってる?」

妹がまるでお前の方が頭いっとるわみたいな表情で俺に尋ねる。俺の心が読めるのだろうか?

「うん。お前の常識がどこでも通用する訳ねぇ。」

「そうかぁ。お兄ちゃん中学でも絵を描いてばっかでテレビとかあんま見てなかったからなぁ。」

妹が頭を抱えながらあり得ないと言うような顔でこちらを見る。

「いや、おい待ってて。確かにテレビとか全然見てなかったけど、そんな劇的に『世はゲートボール時代』みたいになるかよ。」

その俺の発言を聞いて、妹が納得したようにこくこくと頷く。そして、

「なったんだよ。」

とではっきり言いきりやがった。

「いや、アホでしょ。…いや、アホでしょ。」

大事なことなので2回言いました。

あり得ない。あり得ないけど、ここで妹が嘘をつく意味もないので、すべて真実なのだろう。

「お兄ちゃん、びっっっくりすること教えてあげようか?」

ここにきて、さらに、妹がお前がどれだけ無知なのか教えてやろうと言って、ググッと顔を近づける。怖ぇ。

「お、おう…、言っ…てみろや。」

正直、どきどきが止まりません。

「お兄ちゃんが出る秋田予選、優勝したらいくらもらえると思う?いや、待って。やっぱり全国大会で優勝したらいくらもらえると思う?」

ゆっくりと慎重な面持ちで妹が尋ねる。

「イヤイヤイヤ、イヤまず賞金が出ること自体に驚愕なんだけど。」

今、俺の心は、賞金がかかった大会に選手として出てしまうという罪悪感と緊張感でいっぱいです。

そして、しばらくため込んだ後、妹が大声でこう言い放った。

「3億じゃぁぁぁぁあああ!!!!」

「何ィィィッィッィイイ!!!!」

そして、玄関先で竹内さんと妹が会話していたとき、なぜあんなにコイツが必死だったのか少しわかった。エアコン買い放題じゃん。


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