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赤い絆と赤い誘い

作者: クロウ

また平凡な1日が始まる。朝起きて学校に行き、授業を受けて家に帰る。それだけの1日。....いやそれは幸せな日常。大切な平凡。俺の1日も中学まではそうだった。阿呆な奴らはいてもこんなことにはならなかった...


去年の4月7日 俺は高校に入学した。俺は高校の生活に胸を踊らせていた。平凡な日常を変えてくれるのではないかと...確かに高校は俺の平凡な一日を変えた。俺の期待は当たった。半分だけは。期待というものは自分に好都合な妄想。だからこそ当たったのは半分だけ。俺は名前のせいでイジメを受けた。俺の名は鈴山 優夏。俺はこの名前が嫌いじゃない。親が俺に期待と希望を名前に載せて付けてくれたものだから。しかし、高校の奴らは俺の名を女の子みたいな名前だと馬鹿にした。初めは俺も反抗した。この名は俺の親が俺の事を思って付けてくれたものだと。しかしそれは逆効果だった。そんな反抗が奴らの感に触った。俺は生意気なヤツだなどと言われ、いじめの対象となった。はじめは苦痛だった。そんなものは受けたことがないから。しかし、人は良い意味でも悪い意味でも慣れるものだ。俺はこんな日常に慣れた。いじめを受けて死を選ぶ人もいると聞くが俺にはそんな考えは一切なかった。だって自殺はいじめ以上に己を傷つける行為だと俺は認識しているから。死が最も恐ろしいと認識しているから。逃げてしまえば楽だ。だからこそ自殺を選ぶ。確かにそれも人の己の心を守るための選択だ。否定はしない。でも俺は選びたくないって話だ。そんな日々が2年になっても続いていた。もしかしたら死を選ぶというのは絶対ないと考えている俺もこのままなら死を選んでしまうかもしれない。このままなら。そんな俺に、人生最大の転機がある日突然訪れた。


どんどん気温が上がっている六月の夕暮れ。俺はいつも通り帰路を辿っていた。今日も辛いいじめを受け、精神を削って家に帰る。俺は帰りが好きだった。だって学校から離れられるから。奴らから離れられるから。家まで残り1キロ位のところ位だった。人通りの少ない路地で彼女は大人数に囲まれていた。見た感じ男子5人女子4人ってところか。いつもはあんな制服の集団なんて見ないな。俺はそんなことを考えながらその集団を視界の端に捉えていた。その中に一瞬だけ頭を下げている女の子がいた。あまり俺は他人に興味をもたない。ただそこにいるだけなら特に何もせず通り過ぎただろう。しかし、少し距離が近くなった時に聞こえてきた言葉が俺の歩みを止めた。その言葉は明らかに中心にいる子に向けての罵倒だった。俺には正義感なんてものは無い。例え盗みの現場を見たって聞かれない限り放置だ。だが、どうしても俺はここを無視して通れなかった。何故だろうか。多分同じ高校生で同じくいじめを受けているという状態が俺に何かを訴えかけてきたのだろう。いやそれだけじゃないな。自分にそれに対抗するだけの力があると地震があったから。ただの自己満足。どうせいじめをしてる集団を潰して日頃の鬱憤ばらしだ。こんな自分が嫌になる。「お前ら何をしてるんだ?こんな所で」「あんた誰よ。ナンパ?キモイからどっかいってくんない?」「てめぇらみたいなブスなんて興味ねぇよ。率直に言うとどう見てもいじめがあるこの状況を見て何やってんだって言ってんだよ」「あんたみたいなやつにブスとか言われる筋合いないし。別にいじめなんてしてないし。マジでどっか行けよ。ヒーロー気取りが」「ヒーロー気取り?俺がそんなやつにみえるかっての。ヒーローなんざ興味ねぇよ。」「てめぇうざいんだよ!あまり調子のってっとぶっ飛ばすぞ!」「やっちまえ!こんなキモイヤツやっちまえ!」「おうこいよ。ぶっ飛ばしてみろよ。俺はそんなに甘くねぇぞ不良気取りが。」...「クソッ!ざけんな!」中学まで柔道部に所属してたからこんなヤツら余裕だった。全員投げ飛ばして終わり。それであとはびびったヤツらが捨て台詞を吐いて逃げてった。「さてと、大丈夫ですか?」「あ はい大丈夫です。そのありがとうございました。」「いえいえただ感に触っただけなので。」「あの...なんで助けてくれたんですか?」「...あまり自分でもよくわかってないんですが...私も高校でいじめを受けていまして、多分そのせいだと思います。」とっさにいいように聞こえるような言い方をするなんてほんとクズだな俺。「あっ!今考えるとこんなことしたら...すいません余計なことしてしまって...」「いえ大丈夫です。結局エスカレートしたってしなくたっていじめはいじめですから。」そんな事言ってもエスカレートしたら辛いに決まっている。優しい人だ。俺をきずかってくれているのだろう。俺だったら何でそんなことしたんだよ!という自信がある。ほんと俺やってる事と思ってることが矛盾してんな。「あっそうだ。助けていただいたお礼に家にいらっしゃいませんか?」「いえいえ。そんな訳にはそれに私は余計なことをしたわけですし」「でも今助けてくださったという事実は揺らぎません。遠慮しないでお茶でも飲んで行ってください。すぐそこなんです。」「...じゃぁ少しだけ」「そういえばもう一つだけ聞いても?」「何でしょうか?」「あなたのお名前はなんというのですか?」「私の名前は...」彼女なら別に俺の名を馬鹿にしたりはしないだろう。大丈夫だ。多分...「私の名は優夏。鈴山 優夏といいます。優しい夏とかいてゆうか」「あなたにぴったりの名前ですね。親御さんも誇らしいでしょうね。」「...そうですね...」「私は美羽。泉沢 美羽といいます。美しい羽とかいてみう。」




「こういう紹介の仕方をするとなんか少し恥ずかしいですね。」「確かに少し恥ずかしいですね。」「じゃぁそろそろ行きましょうか」その後大体2分くらいで彼女の家に着いた。見た感じだと普通の家だった。周りと同じように白い壁に茶色の屋根そんな感じだ。でも俺はきずいてしまった。たった一つ、ほかの家とは違うところに。壁に微かにだが赤い跡が見える。あれは恐らくいじめのあとつまり落書きであろう。赤いとはいえそれは明らかに血痕などではなく、スプレー缶の塗料だった。流石に頑張って消したのか跡はものすごく微量だったため、見つけるのもましてや読むことも困難だった。しかし、それほどまでにひどいいじめを受けているのは事実である。こんな話はニュースでも聞いたことがないくらいだ。しかしなぜ誰もこんなあからさまにいじめを受けているのに止めない。なぜ親は学校や警察に相談をしない。なぜ。そうは思ったが流石に俺はそこまで聞くことは出来なかった。その日はそのまま普通にお茶をいただき、1時間ほどでお暇した。あの落書きのあとからして一体何が彼女にあるのか気になってしょうがなかった。だからこそ俺はそれを知るために次の日も、また次の日も同じ時間に帰り、同じように彼女に声をかけた。そんな生活は大体2週間続いた。この時は全く気づかなかったが、2週間もこんなことをしたのは好奇心だけではなく、彼女に会いたいという気持ちもあったのかもしれない。


今日も俺はいつもと同じ時間に帰りいつもと同じように彼女を探した。彼女はいつもと同じ時間に同じ場所で見つかった。しかし、何かが違う。なんというのかいつもより重い雰囲気を醸し出していると言えばいいのだろうか。最近は俺がいるから帰り道はあの阿呆共はいない。だが暗い。俺は不審に思いながらも声をかけた。「やぁこんにちは」「あっこんにちは」彼女は声をかけるとこちらに振り向き微笑みを浮かべた。しかしそれはどこかいつもと違う。完全に作り笑いだ。こうなってくるともう何かあるとしか思えない。俺は好奇心に負けた。「何かあったんですか?」「いや特に何も無いですよ?なんでそんなこと聞くんですか?」「嘘をついても分かりますよあなたの顔を見れば」「...そんなに顔に出ちゃってますかね」「えぇ作り笑いをしてたら知らない人でない限り分かりますよ」「そうですか...でもこれは貴方には関係の無いことです。気にしないでください。」「...」「では今日はやることがあるのでこれくらいで失礼させてもらいますね。さようなら」「...さようなら」そういうと彼女は足速に家へと帰っていった。関係の無いこと...か。確かに俺に関係ないことだろう。しかし、どうも気になる。家に何かあったのだろうか。俺は再び好奇心に負けた。俺は彼女の家へと足を運んだ。


「なんだ...これは...」彼女の家の見えるところまでやって来た俺は衝撃を覚えた。そこには壁を洗う彼女がいた。そして壁には...赤い筆跡があった。それは彼女が掃除しているからかほとんど読めるものではなかったが一文字だけまだ読めるものがあった。そこには【し】という文字が。し?一体何を指すものだろうか。全く予想すらできない。その横には二文字ほどのスペースがあったがその時の俺には全く予想ができなかった。ここで3度目の選択を迫られた。彼女に話しかけるかそれとも見なかったことにするか。果たして俺はどうするのが正解だったのだろうか。俺にはずっと分からなかったし、これからも分からないだろう。しかし、俺はどうも《抑える》ということがあまり得意じゃないようだ。俺は彼女に声をかけてしまった。「こんにちは...はさっき言ったか。」「!?...来てしまったんですね...」「ごめんどうしても気になって...」「まぁ見られてしまったものは仕方ありません。せっかく来ていただいたんですお茶でも飲んで言ってください。」そう言って彼女は家に入ろうとする。「あっ!出してくれなくていいよ。そんなことより壁の掃除手伝うよ。」「えっ!?そんなの申し訳ないですよ!」「だってこんなの早く消さなきゃだろ?知らない仲じゃないんだそれくらい手伝うよ。」「でも...あなたにもいろいろやることがあるでしょう?」「そんなもの無いですよ。すごい暇です。ですから暇つぶしに手伝っていきますよ。」「...でも...」「まぁ何かダメな理由があるなら別ですが」「...分かりました。ありがたくお願いさせていただきますね。」「任せてください!さぁさっさと終わらせちゃいますよぉ!」壁の掃除は大体2時間くらいで終わった。多少残っているところもあったがまぁそこら辺はおちなかったので妥協した。その後は流石に時間が時間だったのでお暇させてもらった。彼女はお礼に夜ご飯でも食べていきませんか?と言ってくれたが流石に申し訳ないし家に帰らなきゃなので断ってきた。正直今思うと彼女の作る夕食も気になったがまぁ申し訳ないしねぇ。...流石に何が書いてあったのか何故ここまでいじめが酷いのかは聞くことができなかった。いや聞かなくて良かったのだろう。人には知られたくないこともある。そんなことを思いながら俺は帰路を辿り家に着くのだった。


次の日、俺は彼女の家の壁の落書きについて考えながら1日を過ごした。その帰り道、いつものように彼女を見つけた。「やぁこんばんは美雨」「あっこんばんは優夏さん昨日はありがとうございました」「いいんだよどうせ暇だったしね」正直この時壁にはなんと落書きされていたのか聞きたかった。でも流石にそんなことをするほど馬鹿ではなかったので諦めて彼女と他愛のない話をしながら帰った。彼女と別れ、家に着くと家の前にはバイクが止まっていた。そこにはいかにもガラが悪そうな奴が乗っていた。そいつは俺にきずくとバイクから降りて俺の方へ向かってきた。めんどくさいことに巻き込まれた気しかしないんだが...「てめぇが俺の弟達痛めつけた糞野郎か」「いきなり糞野郎呼ばわりとは随分な挨拶ですね」そいつは少し顔をしかめながら続けた。「お前俺が何をしに来たか分かるか?分かるよな?言いたいことも分かるよな?てめぇの学校頭いいもんな?」どうも学校まで見つけられてるらしい...はぁだりぃ。「悪い。俺はあそこの落ちこぼれなんだ。何を言いたいか全く分からない。」「てめぇ調子乗ってんじゃねぇぞ!ふざけたこと言いやがって!弟達痛めつけたやつを制裁しに来たんだよ馬鹿が!」...だろうな...「はぁ...めんどくせぇ...もう帰れよお前」「あ?なんだその口は。ぶっ殺されてぇのか!」そういってそいつは鉄の棒をどこからか取り出す。だるいわほんと。そしてそいつは俺に向かって殴りかかる。「そんな棒で何が出来るって言うんだよ。」相手は右手に鉄の棒を持って大ぶりで俺を殴りに来る。俺は相手の右腕に自分の左腕を当てて相手の攻撃を防いで右手で相手の服の襟のあたりを掴み、防ぐのに使った左手を返して相手の右手首を掴んで柔道の大外がりを掛けて転倒させた。相手は受け身もできないようで頭をアスファルトにぶつけ呻いている。「分かったろ。そんな棒じゃどうにもなんねぇんだよ。帰れ。」そう言うと不良は頭を抑え、バイクに駆け寄って、バイクで逃走した。そしてそいつは逃げる時に確かに言ったのだ。「人殺し一家の肩なんて持ちやがって」と吐き捨てたのだ。それは比較的小さい声だったがハッキリと聞こえた。人殺し...一家...?つまりそれはどういう事だろう...。その日俺はその事を考え続け夜中の2:00になるまで眠ることは出来なかった。


次の日、俺は眠い目を擦りながら学校へ行き、授業を受け、帰り道に美羽と喋って家へと帰った。明日は休みだったので少しいつもより気が楽だった。まぁ日曜日はその逆に気が重くなるんだが...。最近なんか色々とあったが今日は何も無かったので家に帰ってさっさと寝た。土曜日になり俺は7:00頃に目が覚めた。特にやることはないが昨日早く寝たためこれ以上は眠れなかった。朝飯を食い、ダラダラして午後を迎え、昼飯を食った。それからテレビを見ていたのだがいきなり大量のバイクの音が聞こえ、すぐ近くまで来て止まった...うわぁ嫌な予感しかしねぇよ...「おい鈴山!出てきやがれ!中にいんのはわかってんだよ!」うわぁ...だるいぞぉ...だからといって放置するにしてはなぁ近所迷惑だからなぁ...警察に電話してもまた来るだろうしなぁ...どうしたものかと迷っていると「早く出て来いつってんだろ!出てこねぇとどうなるか分かってんだろうなぁ!」などと叫び始める...うわぁどうせ出ていってもボコボコにされるだろうが...どうしようか..........「はぁ...気は進まないがとりあえずこうするしかないか...」


ガチャ...「おおやっと出てきやがったか」「お前ら近所迷惑なんだよ...」「そんなこと気にしてられる立場か?」「まぁ本当なら気にしてられないがどうせ逃げても出てきても結果は同じなんだそれくらいの余裕はあるさ」「ほうてめぇなかなかいい度胸してやがるじゃねぇか」「そりゃどうも」「それじゃ少しついてこいここじゃ色々と面倒だからな」「どうせ拒否権はねぇんだろ全く...」


「さてと河川敷の高架下になんて連れてきやがってどうすんだ?」「聞く必要あるか?その質問」「いやねぇな」「だよなじゃぁ覚悟はできてるようだし...やっちまえ!」「...悪いが俺も唯やられるほど諦めが良くないんでな全力で抵抗させてもらうぜ!」相手は約20人か...無理ゲー...


「さてともう買い忘れはないかなぁっと」私は買い物を終わらせ、河川敷のすぐ側の道を歩いていた。「おばぁちゃん達待ってるだろうし早く帰んなきゃなぁ」私が歩をはやめようとしたその時、私の目にはある者が飛び込んできた。「あれは...」そこに居たのは私を虐めてくる子達のお兄ちゃん達がいる不良グループだった。喧嘩している様子なのでほかのグループと争いでもしているのだろう。私がそう考え踵を返し帰ろうとしたその時、もう一つ目に飛び込んでくるものがあった。一瞬、人混みがわかれた時に見えたあれは...間違いなく「優夏くん!?」なぜ彼があそこに!?まさか...私のことをかばってくれたせいで標的に!?じゃぁ私のせいで?...私の足は無意識のうちに動き始めた。


「ガハッ!」「チッ!手こずらせやがって!」俺は赤くなった視界の中地に体を突っ伏した。周りを見ると倒れている不良がだいたい10人。最初の半分くらいか...あぁあ予想より鈍ってたなぁもう二人くらいはいけると思ったんだけどなぁ...そんなどうでもいいことを考えているとザク、ザクと少しずつ残りの不良が俺との距離を縮めてくる。あぁあ何本で済むかなぁ...なんて説明すればいいのかなぁこれ...そんなことを考えていると二つのことが起こった。一つ目は女性が俺と不良の間に立ち塞がったこと。視界が眩んでいる俺では後ろ姿だけで誰か判断することは出来なかった。しかし、二つ目の出来事でその人が誰か確定した。「これ以上優夏くんを傷つけないで!」「美...羽?...」声を聞いた途端分かった。目の前に立ち塞がったのは美羽。恐らく偶然この現場を見かけて俺を庇いに来てくれたのだろう。「どきな。」「もうやめて!」正直やめて欲しいのはこっちだ。こんな真似されるとカッコつかねぇじゃねぇか全く...。「悪いが俺達もやんなきゃなんねぇんでな。」「やめて!優夏くんを傷つけないで!」「うるせぇガキだな...。まぁいいんだぜやめてもお前が身代わりになるって言うならな」「!?」「まぁ身代わりって言ってもお前を殴るって意味ではないけどな。」ハハハハハハ。周りで不良たちが不敵な笑い声をあげる。「....分かりました。それで優夏くんを見逃してくれるんですね?」「もちろん。」ハハハハハハ。その笑い声と同時に何かが外れたような音が俺には聞こえた。


これで優夏くんを守れる。これで...よかったんだよね...。「よしじゃぁついてこい。」私は言われた通り歩を進める。ごめんねお母さん、お父さん。さようなら、優夏くん。「アアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」「!?」後ろを見ると倒れていたはずの優夏くんが立ち上がり叫んでいた。いや、吠えていた。「なんだこいつまだ動けたのか。だが、良かったな。お前の代わりにこいつが俺たちと遊んでくれるってよ。つまりお前にはもう用はねぇ帰んな。」「...」「あ?聞こえなかったのか?帰れつってんだよテメェにもう用はねぇんだよ!」不良がそう叫んだ時、優夏くんは不良に向かって走り始めた。「チッ!まだやんのか!」


「ヒィィィィ!!!」不良たちの最後の一人が逃げ出して優夏くんと不良たちの争いは終わった。周りを見渡せば唯一立っている優夏くんと大量の血、そして地突っ伏している不良達。「優夏...くん...?」「ハァハァ...」ドサッ「優夏くん!?」私は急いで優夏くんを病院へ連れていった。優夏くんはナースたちによって奥へと連れていかれた。


「...ここは...」目を覚ますと白い天井が目に入った。確か俺は不良たちと戦って...「いっつ...」身体中が痛い...体を見回してみると患者服が着せられていた。「つまりここは...」周りを見渡すと患者が寝ていた。「ここは病院か...美羽が連れてきてくれたのかな?...美羽は!?っていって!」体を起こそうとして体が痛む。「こりゃしばらくまともに動けねぇな...」そうつぶやき、少し周りを見渡してみた。そして窓の外を見てみると夜だった。通りでみんな寝てるわけだよなぁ...。「美羽はどうしたかな...」不安はあった心配もあった。でも今の俺じゃ何も出来ない。彼女の安否を確認することも出来ない。「...仕方ない。今日は寝て明日考えるか。」そうして俺は眠りについた。


「今日で退院かぁ」あれから1週間たった。一週間毎日美羽はお見舞いに来てくれた。美羽は俺が起きているところを見て初め安堵した表情を見せ、次に謝ってきた。正直なぜ謝るのか全く最初わからなかったが、彼女は自分のせいでああなっていたと思っていたらしい。あとで知ったのでその時はあたふたするしかなかった...。我ながら酷かったなあれは...。まぁすぎたことは仕方ないか...。まぁそんなこんなで暇な一週間を過ごしたわけだ。いや学校行かずに、美羽と毎日会えたから楽しかったかもな。


家について久しぶりの家にやっぱり家が一番だななどとあたり前のことを考えながら久しぶりに病院食じゃない昼食をとった。まぁ病院食も嫌いってわけじゃなかったけど。そしてその後転がっててふと美羽にお礼に行かなきゃなと思った。毎日欠かさずお見舞いに来てくれたのだ、昨日あった時に口頭でお礼はしたがもうちょっとしっかりお礼しておきたい。なんせ美羽が来てくれなきゃずっと暇だったし、美羽のおかげてむしろ楽しかったしな。相手に罪悪感があってそれで毎日来てたのだとしたら罪悪感を感じることなんて無いって伝えるべきだしな。俺が勝手に戦うことを決めた戦いだ。いや、ただの喧嘩だなそんなかっこいいもんじゃない。そんなものに美羽に汚点があるなんて事はありえない。だからこそしっかり伝えなきゃな。などとよく分からん理由付けをしながら本心美羽に会いたい一心で果物をもって美羽の家へと向かった。


しかし出る時にポストを確認するとそこには「お前のせいであいつは不幸になる。お前の正義は裏目に出る。お前ではあいつを守ることは出来ない。」という事が赤で書いてある紙が入っていた。嫌な予感がしながらその紙を握りつぶし、美羽の家に向かった。


着くと美羽のお婆ちゃんが出迎えてくれた。「こんにちは。」「こんにちは優夏くん。」「これつまらないものですがどうぞ。」「あぁありがとね。」「あの、美羽はいますか?」「美羽ねぇもう昼もすぎたのに午前中に出てってからそれきり帰ってきてないのよ。」「そうですか...」胸騒ぎがした。さっきの紙もそうだが、病院に見舞いに来てくれていた時の美羽は確かに微笑んでくれてはいたもののどこかぎこちなく、きずかないふりをしていたがたまに辛そうな顔をしていた。だからこそさっきの手紙とあいまって更に胸騒ぎがした。「でももうそろそろ帰ってくるだろうし家で待ってる?」「え?あ、あぁ大丈夫です。でも帰って来たら連絡もらえますか?」「そう?分かった。そうするね。」「ありがとうございます。ではこれで失礼します。」「気をつけてね。」「はい。」美羽のお婆ちゃんが家の中に戻ったのを見たあと、俺は走った。


走って走ってそのうち日は傾いた。町中を探したはずなのに美羽はいない。更に胸騒ぎがした。俺はそんな心情の中最後に残った、いや最後まで無意識に行くことを拒否していた場所へと足を運んだ....。そこに美羽はいた....。


最後に残った場所それは海辺の崖だった。そこは景色が綺麗な穴場でそして...自殺で有名なスポットだった....。「美羽!」「!?優夏くん!?」「何でそんなところに!?危ないから離れるんだ!」「ど、どうしてここに!?」「胸騒ぎがして探してたんだ。」「そうなんだ....。」俺は何とか焦る気持ちを落ち着け、崖の上に立つ美羽の隣に並ぶ。「なぁ美羽。」「なに?優夏くん。」美羽もとりあえず落ち着いた様子だった。「何でこんなところに?」「....優夏くんは知らなかったよね。私がいじめられてる理由。」「あぁ。聞いたことないな。」「私の両親はね、刑務所にいるの。」「...そうか。」「私の両親ね?昔家に侵入してきた泥棒にきずいて目を覚ましたら泥棒がナイフを突きつけてきてね?それでお父さんナイフを取り上げて泥棒を殺しちゃったの...。それでお母さんが泥棒の死体を怖くなって隠しちゃったの。そしてそれが警察にバレて刑務所行き。今は裁判も終わって服役中なんだ。」「...」何も言えなかった。何も言えるはずがなかった。「でもね!お父さんとお母さんがそんなことしたのは私のためだったの...。最初はそれを知らなかった。でも、その事件が発覚して一年経った頃お婆ちゃんが真実を話してくれた。泥棒がナイフを向けたのは私。そしてそれでお父さんは私を守るために泥棒と戦ってその中で殺しちゃったの。泥棒の手が震えてたからこそ出来たみたいだけど...。」「..........」「だから私はお父さんとお母さんには感謝してる。でも周りはそんなこと関係なかった。みんな事実だけを見て私の両親をただの人殺しと決めつけ私を虐めた。どんな理由があろうと人殺しを肯定できないのは分かってる。でもやっぱり私はお父さんとお母さんの気持ちを分かってくれなかったことが悔しい。」美羽は強く拳を握りしめていた。「そんな事が...」「それでこの前の1件のあと私へのいじめはエスカレートした。多分優夏くんには敵わないそう判断してだと思う。あっ勘違いしないでね!私は優夏くんのせいでなんて思ってないし、むしろ...」「?」むしろの後の言葉はあまりにも小さく聞き取ることは出来なかった。だがなぜか美羽の顔は真っ赤だった。全くわからん。1年間以上あまり人と話さなかったせいでここまで相手の感情を察せなくなるものか....。もどかしいなぁ。「...それでねこの一週間辛くて辛くて今まで思ったことないけどつい考えちゃったんだ。しにたいって...」「そうか...」「とりあえず優夏くんが退院するまで今日ここに来たんだけど...崖からの景色見たらやっぱり怖くなっちゃって。死にたいって思うけどやっぱり死ぬのは怖いって気持ちもあって...。」「当たり前の感情だよ。誰だって死ぬのは怖い。それでいいんだよ。」「うん...。そうだね...。でもなんか自分が情けなくて、逃げようとしてもそれすら出来ないなんて...。」「...」その後しばらくどちらも何も喋らなかった。ただただ崖からの景色を呆然と見つめていた...。「なぁ?」「なに?」「俺の話も聞いてくれるか?」「...うん。」「俺の両親はな。両方亡くなったんだ。」「...そう...なんだ...。」「母親は元々体が弱くて出産の時に亡くなった。父親は母親が死んだ悲しみをストレスにして亡くなった。その話を聞いた時何でそこまでと俺は思ったがじぃちゃんの話曰く俺の父親は母親の幼馴染で昔から体が弱い母親を見て育ってきてて結婚する時、『一生お前を守り抜く』って約束してたらしいんだ。母方のおばぁちゃんは『彼はよくお前の母さんを支えてくれた。母さんはお前を産めて、あの子と出会えてとても幸せだっただろう。』とは言っていたがやっぱり父親は死なせてしまったことが、いや自分の前から消えてしまったことが原因で相当自分をせめてそれをストレスにしてたんだろう。」「そんなことが...」「両親との記憶はない。両親は写真でしか見たことがない。そんな両親が唯一俺に残していった確かなもの、それが名前だ。」「唯一...」「だからこそ俺は自分の名前に誇りを持ってるし、自分の名前をすごく大切にしてる。だからこそ俺は高校に入って名前で小馬鹿にされて本気でキレた。確かに相手にとってはしょせんただのおふざけだったんだろう。でも俺にとっては俺が持つ中で最も大切なものを汚された。だからこそ頭にきた。周りから見たら何でそんなことででも俺には大問題だ。」「...」「だからそれでいじめられても後悔はない。俺自身が何をされたって名前を馬鹿にされたら黙っていられない。俺にとってはそういうものなんだ。」「親が残してくれた大切なものだもんね。そりゃそうだよね。」「あぁ。そして、もう失ってるからこそ俺は死ぬのは1番怖いことだって他の誰よりも理解してると思ってる。死んだらもう想いを伝えることすら出来ない。そんなの...そんなの辛い....。」「そうだね...。」「だから、ひとつ頼みがある。」「....」「死ぬなんて考えないでくれ。美羽にはまだ捕まっているとは言え両親がいる。美羽が死んだらどう思う?俺にはよくわかる。いや、ある意味分からないか。だって俺は失ったものを知らないから。でも例え失ったものをあまり良く知らなくても身近なものを失うのは辛い。思ってる以上に辛いんだよ。」「そうだよね...。でも!私にはもうこれしか!」「それに美羽が居なくなったら俺も辛い。」「!?」「退路を塞いでさらに首を占めてるのは分かってる。でも、死んだら終わりなんだよ。生きてればまだ意思は伝えられる。いや、そんなことより俺はもう失いたくない。ここまで来るまで不安で不安で仕方なかった。父親の気持ちを理解したと思った。既にもう美羽が死んでいたらと思うと怖かった。だからまだ生きていてくれてほんとに嬉しかった。」「優夏...くん...」「もう美羽は俺の中ではそういう存在なんだってよく理解した。こんな感情はじめてだからきずくのがおくれたけど俺は美羽のことが好きだ。」「!?」「だから、失いたくない。辛いものは一緒に背負わせてくれ。いや、美羽を癒すことができるように努力する。だから...だから!美羽。俺と付き合ってくれないか?こんな時に言うことじゃないとは思う。だけどやっぱり今伝えなきゃ後悔すると思うから。」....「こんな弱くて、我儘な私を好いてくれるの?ずっと迷惑をかけたのに?」「そうだそういえば最初はそれをただしに来たんだった。」「?」「美羽は俺に迷惑なんてかけてない。ずっと言ってるだろ?俺が好きで首を突っ込んでるんだ。だから気にしないでくれ。って言っても気にするのが美羽なんだろうけど。」「だって...ずっと私の身代わりに...」「何言ってんだよ。身代わりになるなんて言ったら一切俺は身代りになれてないよ。だって俺はただ帰り道で偶然あったイジめっ子をただの鬱憤ばらしに攻撃して、ほかの人を守ったと自分に言い聞かせていい気になってその結果ヤンキー立ちに絡まれただけなんだからな。ほらどこでかばえてるんだよ。どこでも美羽を守るようなことは出来てない。特に学校なんてメインなのに俺じゃ何も手だしできない。」「でも!やっぱり優夏くんは私を守ってくれたよ。」「...まぁそう言ってもらえると助かるよ。でさ?答えを聞いてもいいかな?」「...こんな私でもいいなら...よろしく...お願いします...」美羽の声は少しずつ小さくなっていきながらもハッキリとそう告げた。そして、そんな彼女の顔は真っ赤だった。「ハハハハ」「なによ笑うことないじゃない。そんなに赤いかな?」自分でも顔が赤いのはよくわかるようで顔をペタペタと触っている。というかあれは隠そうか隠さまいか迷ってるのか?「ハハハハいや違うよ。嬉しくてね。さらっと言ったけどやっぱり本当は心臓バクバクでさ。断られたらどうしようかと思ってね。いやぁ良かった良かった。片思いで完全に痛いやつになったりしないで。」「むぅ。ほんとかなぁ...。まぁそれならいいんだけどさ。」...「私もずっと前から好きだった。初めてあった時から少し気になってて話していくうちにだんだんと惹かれていった。でもやっぱり私の過去を知ったら離れていっちゃうって思ってそれが怖かったの。だからずっとずっと心の奥に気持ちをとどめてこの関係を崩さないように、秘密がバレないようにって...。」「そうだったんだ...。まぁ何にせよ片思いじゃなくて良かったよ。って待てよ。」「ん?どうしたの?」「今告白してオッケーを貰った。つまり我々はカップル。ということは遂に俺もリア充だ!やったぜ!」「うんまぁそういう事だけど...やっぱそういうこと気にする男の子もいるんだね。」「まぁ多分大体の彼女いない歴=年齢の人はリア充爆発しろ!とか言いながらリア充になりたいって思ってると思うよ。いるってだけでステータスになる時はなるしね。」「ふーん。そういう風に考えてるんだぁ?」「いやいやなる時はっ言ってるじゃんそんな思惑があってじゃないから!」「ふーんどうだかねぇ〜」「いや信じてよ!」「まぁ正直私はどっちでもいいけどね。」「え?」「だって少なくとも好きな人の近くにいれるってことだからね。」「ふぅん。そっかー...。って信じてよ!」「うふふ。嘘だよ嘘。信じてないわけないでしょこんな私を好いてくれる人を疑うわけないじゃない。」「うむぅ...。はやくも見たことない一面を見せつけられた気がするなぁ。一体どんな面がこれから見られるのかな。」「嫌だったら素直に言ってね?直すから。」「いやいや、そういう面も俺は可愛いと思うよ。」「うふふ。ありがと。」「まぁそんなことは置いといてもう暗くなってきてるし帰ろうか。」「うんそうだね。」ピシッ「ん?なにか聞こえた?」「え?私には何も聞こえなかったけど。」「じゃぁ空耳か。さてさっさと帰ろうか。」「うん。」






ドーン!「おい!崖が崩れたぞ!」「崖の上に人影がいたように見えたわ!」「そんな馬鹿なあんな所に人がいるなんて!」「俺も見たぞ!二人の人影がたってた!」「じゃぁ海へ崖と一緒に!?」「救急車だ!救急車を呼べ!」....


END


連載小説として投稿していたものを誤字チェックを多少して一つにまとめて投稿したものです。こちらから見たという人のために一応言っておきますが続編はありません。作者からの粋な計らいとして物語の続きをご自由に想像して下されば幸いです。

言いたいことは大半連載小説版の最後の後書きに残されているのでそこだけ見ていただければ私としては助かります。それでは良い読書ライフを。

作者 クロウ

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― 新着の感想 ―
[一言]  いじめはなくならない運命なのかもしれません。
2017/07/27 17:27 退会済み
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