復讐のために召喚した悪魔は瞬殺された
僕は普通の身長で普通の顔で普通の頭の普通の人だった。人に言われなくても自覚していたし、このまま普通の人生を過ごして終わるんだろうなと思っていた。
ある日の朝、校門の前に誰かを待っているように立っていたクラスメートに「おはよう」と言った。しかし、何も返ってこなかった。僕は聞こえなかったのかな?と思ってそのまま教室に向かった。
教室に入って自分の机の場所に座り、僕より早く来ていた後ろの子に「おはよう」と言った。しかし、何も返ってこなかった。これはさすがにおかしいと思い、後ろの子に「無視するな!」と少し怒りながら言うと、
「おいおい神崎の奴、田中に怒鳴ってるぜ。これは先生呼んだ方がいいんじゃねえのー?」
「よし。ジャンケンで負けた奴が呼びに行くか?」
「いやいや、それより直接言おうぜ」
チャラそうな三人組の声が聞こえた。
小声とは言い難い声の大きさなので、わざと聞こえるように言ってる事がわかる。
そういえば昨日先生にあいつらがタバコ吸ってること言ったからそのことを恨んであの二人に無視させてるのかなと思ってあまり気にせずにその日を過ごした。
次の日、また無視された。それもクラスメート全員に。
おまけに靴箱に上靴はなく、教室のゴミ箱に捨てられていた。
その日から嫌な予感がしていた。
その次の日、また上靴が教室のゴミ箱に捨てられており、体育の時間の後に教室のゴミ箱に筆箱があった。
「誰がやった!」と大声で言ったが、全員が何事もなかったように無視した。
その日の夜、次の日は何もありませんようにと初めて神様に祈った。
その次の日、上靴は教室のゴミ箱にあった。その時点で僕はこのイジメが終わってないことを理解した。
絶対に無視されると思ったのでその日僕は誰にも話しかけなかった。
昼放課にトイレから戻ると、筆箱がなくなっていた。ため息を吐きながらゴミ箱を見に行くと、ゴミ箱には見覚えのある弁当箱と筆箱に加えて弁当らしき食材がぶちまけられていた。
これはあんまりだと思い、僕は先生に言いに行った。
だが、
「はぁ、お前が自分でやったんだろ。なんでそこまで八坂たちを目の敵にするんだ?」
どうやら先回りされていたらしく、僕は三人組に罪を着せるために自作自演をしたと思われているようだ。そりゃ、僕のために証言してくれる人はいないもんな。しかも前のタバコの件も僕が吸っていたんじゃないかと疑ってるようだ。
その日は、明日は何をされるんんだろうと思えてよく眠れなかった。
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イジメが始まってから何ヶ月目だろうか?色々なことをされた。先生が全く僕の言葉を信じなくなってから直接的な暴力を振るわれるようになった。
他クラスの人たちは最初は憐れむように見ていたが、どうも僕の自作自演という噂が広がったようで蔑むような目になり、イジメに参加する者も出てきた。
最悪なことに親もその噂を信じたらしく、帰宅早々本気で顔面を殴られた。
クラスメートは共犯者。教師は信じてくれない。親も信じてくれない。
僕は学校に行くのが嫌で嫌で仕方がなかった。そのことを親に伝えても「自業自得だろう、とっとと行け!」「これ以上私たちに迷惑をかけないでッッ!!!」と言われるだけだった。何が自業自得なんだろうか?このクソ親父を殺して少年院へ行った方が幸せなんじゃないか?僕は本気でそう思った。
苦痛だった。
家の中も外も針の筵だった。
唯一自分の部屋だけが少しだけ安心できた。親の声が響いてくるから本当に少しだが。
ある日、押入れに変な本が挟まっていたので抜き取ってそれの表紙を見ると「悪魔の書」と書いてあった。ものすごく嘘臭かったが、ボロボロだったのでなんとなく本当な気がして読んでみた。
「悪魔の書」はなんとなく本物ぽかった。
自暴自棄だった僕は、失敗したら全てを書いた紙を自室の机に置いて自殺しようと思って夜の公園に向かった。
夜の公園に到着した僕は、地面に「悪魔の書」に書いてあった物品の必要のない「悪魔召喚の魔法陣」を書き、魔法陣に手をついて真剣に祈り続けた。
10分経過し、あと少しだけ待ってみよう。
そう思った瞬間ーー
ーー魔法陣が光りだした。
僕は内心とてつもなく驚いたが祈り続けた。
今さら祈ることに意味があるかは知らんが、このままこの光が消えてしまうのは絶対に嫌だったから。
そして光が収まった。
僕は期待しながら魔法陣の上に立っている存在に目を向けた。
そこには手足を爬虫類のような鱗で覆った黒い体の牛がいた。
僕は内心ガタブルになりながら意を決して牛に話しかけることにした。
「ようこそ、悪魔様。僕は神崎翔太と言います」
「うむ、私はアムガノン侯爵だ。ところで私は殺さなくていいのか?」
牛は不思議そうにそう言った。
……何を言ってるのだろうか?
「悪魔の書」には解読不能な部分もいくつかあったのでその関連だとは思うが。
「いえ、殺すなど滅相もございません。あなた様に叶えて欲しい願いがあったので物品の必要のないこの魔法陣で召喚しただけです」
「そうなのか?では私をこの世界に召喚してくれたくれた礼にその願いを叶えてやるとしよう。何を願う?」
「悪魔の書」曰く、悪魔は皆この世界に来たがっているため、物品を使って行動を制限しないタイプであるこの魔法陣は悪魔にとって渡りに船であり、お礼に召喚者の願いを叶えてくれる場合がそこそこある。
「僕の願いは僕が憎む者たちを…」
「はい、ちょっと待った」
僕が言っていた願いが第三者の声によって遮られる。
声の主は20代くらいの男だった。
「契約ならまだしも無制限の悪魔は野放しにできん。大人しく帰ることを勧める」
男はそう言った。
牛に対して恐れを全く抱いていない風に見える。
一体何者なんだろうか?
「せっかくこの世界に来れたのだ。大人しく帰ると思うか?」
「……そうか。予想通りだが残念だ」
両者が戦闘態勢に入る。
ハッキリ言って男が勝つ未来が全く想像できなかった。
しかし、
バリィィイイイイイ
一瞬。
まさしく一瞬だった。
牛も男も僅か一瞬で何かをし、牛は負けて黒焦げになっていた。
男の顔には全く誇らしげな表情はなく、その結果を当たり前に思っている風に見えた。
牛の死骸を一瞥した男は僕に目を向けた。
僕の体が竦む。
「さて、君には聞きたいことがあるんだが………!?そこから離れろッッ!!!」
淡々と話し始めた男が初めて表情を変えたその瞬間、僕が手をついていた魔法陣が再び光り始め、同時に牛の体が煙になって魔法陣に吸い込まれた。
僕は呆然とそれを見ていることしかできなかった。
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あの魔法陣は召喚した悪魔を倒し、その力を奪う物だった。
と言ってもその力が馴染む可能性は50%未満であり、馴染んでも異形化することがよくあるらしい。
僕は大成功だった。
あの後、牛の力を取り込んだ僕は男が見守る中、小一時間苦しみ続け、異形化せずに牛の力を取り込むことに成功した。
あの後わかったことだが、僕がイジメられていたのは男の主人だという神によるミスであり、男はそれを修正するために来たらしい。
つまり僕が悪魔を召喚したことに意味はなかったということになる。
さすがに頰が引きつったことを覚えている。
その後、僕は男に牛から奪った力を悪用した場合殺すと脅され、そのまま帰った。
次の日、どうやらちゃんと修正されたらしく、親の態度は軟化し、クラスメートにはちゃんと挨拶され、先生に睨まれることもなくなった。
何故か八坂がいなかったことになっていることや「悪魔の書」がどっか行ったのは恐ろしかったが、僕はやっと重い荷物から解放された気分だった。
ただ、彼らににこやかに話しかけられても彼らのやったことを覚えている限り、僕はもう二度と心を許さないだろう。
時々、アレは夢とか妄想だったんじゃ?と思うが、腕にある紫色の小さな紋様と携帯に入ってる「悪魔の書」の写真を見て現実だと確信する。
連載して欲しい人!
はい!と言ってくれると嬉しいです。