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01. 異世界で生活してます。

 現代日本と異なる世界に迷い込んでから三年の月日が経過した。

 はじめこそ戸惑い嘆き絶望し、死にかけたことも両手の指を使っても数え足りない。それでも私――高野理央たかのりおは生きている。

 この剣と魔法のファンタジーな世界でCランクの冒険者として、その日を不自由なく暮らせて順調に貯蓄できるだけの金銭を稼ぎながら。

 死と隣り合わせで危険極まりない世界だけど、子供の頃に心躍らせた魔法の存在するこの世界を私はそれほど嫌ってはいない。

 もともと孤児なので家族は居ないし、冷静になって考えてみると心残りは特になかった。何かの拍子にまた日本に戻れるかもしれないな。そのくらいの気持ちだ。


 とまぁ、そんな風に楽観的で舐めた思考をしていた私がこうして生き残っているのは、気が付けば備わっていた能力のおかげだ。

 当時実感はあまりなかったが、私が何かチート能力を持っているとするなら「空間魔法」と呼ばれるものだと思う。

 世間一般に認知されているものは一定の荷物を入れて簡単に持ち運びできる「収納鞄マジックバッグ」や上級魔術師が使える「移転ワープ魔法」なのだが、私の能力はこれらに限られたものではない。

 この世界で空間魔法自体が適合者が少なく非常に重宝されるものであるという話もあるのだが、それを話し出すと長くなるので今のところ置いておくとしよう。

 色々割愛して一言で告げてしまうならば「異空間から欲しいものを取り出せる」反則技が私の能力だ。こう軽い感じで伝えれば大した能力には思えないかもしれないが、本当に何でもアリなのである。


 例えば私が冒険者をするにあたって装備している武器の弓。

 これは一見何の変哲もないただの弓に見えるが、実は私が矢を射れば必ず的に命中するという効果が付与されている。つまり「外れ知らずの弓」だ。ネーミングセンスには突っ込むな。

 次に特に視力が悪くもないのに掛けている伊達メガネ。

 これも単なる安物のメガネに見えるが、実は街や迷宮などで敵(魔物)や味方(人間)の位置が分かる上に宝箱や隠し部屋なども表示されるMAP機能が付いている便利道具なのだ。ついでに言えば検索機能もあるので人捜しやアイテム探しでも役立つし、ゲームでよくあるステータスなんかも見ることができる。それこそ、生きている人間や魔物に限らずその辺に転がっている石ころだって。

 弓と同じで持ち主の私にしかその効力が出ないあたり本当に反則だ。(ちなみにファンタジーな世界でメガネなんて掛けていると目立つと思ったけれど、どうやらこの世界では一般家庭にも存在するものらしく全く心配する必要がなかった)

 冒険者に見えるようなデザインの衣類やローブは当然のように魔法耐性があるし、ブーツにはどれだけ長距離を走って移動しても脚に負担を掛けない効果が付いているらしい。


 何故そんな反則装備品を手に入れているのかと問われれば、異空間から取り出せたのだから仕方がないとしか返事のしようがない。

 更にこの能力のすごいところは、食べ物まで私の思いのままだということだ。ついでに言うと、能力を使っても何か私が損をすることはない。魔法ならMPが減るとか何らかの変化が起こるはずなのに、無限に使い放題なのだ。

 剣や魔法の派手さもなければ、錬金術などの手に職を持つことはない。でも本当に「何でもあり」だった。基本的に所有者は私限定と防犯もバッチリである。


 しかし重大な問題もある。このチートが誰かに知られてしまえば大変(面倒)なことになるということだ。

 便利さに引かれた者に付きまとわれたり、悪用しようと考える者に拉致されたり、探求心の強い物に囲われたり実験対象として見られたり。

 少なくとも三年間この世界で生きてきて「特別な能力」を持つ者は、権力争いに巻き込まれやすく、自分の望む生活をできないようになる傾向が強い。


 どんな病気や怪我でも治せる少女(たぶん私と同じ現代日本人)は聖女として教会に連れて行かれて散々働かされまくったあと、国と多くの権力者達の間で揉めに揉めた結果――王太子の第五側室になることが決まった。その婚姻に愛があったのか、少女が納得していたのかは知らない。

 絶大な戦闘能力を持っていた青年(彼も恐らく日本人)は勇者として国に必要とされ、美少女のお姫様との結婚話に釣られて戦争の道具として日々戦い続け、最終的に敵国将軍と刺し違えてその人生を終えた。

 戦う力はないが、錬金術で効果の高い薬や道具を作りだした少年(この子も同じく以下略)は素材集めの旅に出た以降は行方知れずだ。護衛として雇っていた冒険者達が死体で見つかったので、もしかすると他国に攫われて錬金漬けの毎日を送って飼い殺され運命を辿っているのかもしれない。想像でしかないけれど。


 こうして例にあげた三人以外にも、何かの争い事や問題に巻き込まれた者は少なくない。それを好待遇と受け取るか自由の拘束と思うかは各々で違うかもしれないが、私は後者だった。

 だから私は自分の能力を隠し、一人で冒険者をやるにはギリギリのラインであるCランクを保って生活している。

 請け負う依頼によっては他の冒険者と行動を共にすることもあるけれど、基本は一人だ。食材や薬材、鉱石などの採取ばかり行っている。ぼっち? ふふん、上等だ。


 この世界の通貨の単位は、ゴルドだ。

 1ゴルドあればリンゴが1個買えるので、単純に私は1ゴルド=100円くらいに考えばいいと思う。支払は紙幣というものは存在せず、常に複数の種類ある硬貨で行われている。

 銅貨1枚=1ゴルド(100円)、銅貨10枚=大銅貨1枚=10ゴルド(1000円)、大銅貨10枚=銀貨1枚=100ゴルド(1万円)、銀貨10枚=大銀貨1枚=1000ゴルド(10万円)、大銀貨10枚=金貨1枚=1万ゴルド(100万円)、金貨10枚=大金貨1枚=10万ゴルド(1000万円)、大金貨10枚=白金貨1枚=100万ゴルド(1億円)と硬貨が存在する。

 が、金貨以上は商人や貴族、凄腕の冒険者などが高額な取引を行う時に使用するくらいで、一般的に出回っているのは大銀貨までだ。

 大人数の防具や武器を一括で揃えるならまだしも、リンゴ1つを金貨で買う馬鹿なんていない。店側もお釣りを簡単に用意できないし、金貨を持ち歩く側もいつスリに遭うかと気が気じゃないだろう。

 私は能力を応用して、財布専用の空間魔法を作っているが中身はもっぱら銀貨以下の硬貨ばかりだ。

 ぶっちゃけてしまうと、何でも生み出すことのできるこの能力で硬貨も作ることもできるのだが、それでは自堕落な生活一直線だと思って働いている。世のニート共よ、私を見習え。


 おっと、話が逸れた。

 そんな訳で、私は自分が生活するのに不自由なく、且つ毎日少しずつ貯蓄できる額を稼ぐようにしている。

 現在私が生活拠点としている古びた宿の一室が一晩30ゴルドが必要で、この世界の料理や雰囲気も知りたいので食事に10ゴルド使うとする。その他雑費に10ゴルドを見積り、一日を生き抜くのに必要なのが50ゴルドと思って、最低でもそれだけは稼ぐことで今の私が成り立っている。

 多く稼げた分は、チートを使って空間に作った財布に一人貯金。今では結構な額が貯まっていて、完全に趣味が貯金になってしまった。


 簡単に説明するつもりだったのに結構な時間が経過してしまったけれど、私の異世界生活はこんな感じだ。

 Cランクの冒険者なんてたくさんいるから、目立つこともなく粛々と毎日を過ごすだけ。

 いつか日本に帰れるかもしれない。一生このまま異世界で生活していくのかもしれない。でも正直、それはどちらでも良いと思っている。

 時折拠点を変更しながら不自由ないその日暮らしをする私だけど、今は未だいつどこで腰を落ち着けるか決めていない。

 だから私は今日も、便利すぎるチート能力を隠しながら生きていく――。


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