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8:のんびり依頼を受けようとしていたら、権力者が怒ってきた。

 助けたとしてもその力に恐怖されたりするのかなー、それってなんだか嫌だなという思いをアレイシアは持ちながらも、とりあえず依頼をこなすことになれるためにヒレンからどの依頼を受けるべきか意見を聞きながらのんびりと過ごしていた。

 この町にきて、一週間。

 ひたすらに依頼を受け、淡々とこなしていくアレイシア。

 その日もヒレンの元へといき、「どれがいいと思う?」などといいながら依頼を選んでいた。

 そうしていれば、声がかかった。

 「お前、新人のくせに何ヒレンさんに迷惑かけているんだよ!」

 そんな怒り狂ったような声。その声の主は人間の少年だった。その身にまとう服は決して平民が手を出せるようなものではない。人間の中の、権力者というやつなのだろうとアレイシアは思った。

 『こいつ、むかつくぅ。燃やす?』

 そしてアレイシアの横でふよふよとうきながら、何とも物騒な事をイチは言い放った。

 「ジベルト・シュノサイド。貴方は何をおっしゃっているのですか。私は欠片も迷惑などと思っておりませんわ。ええ、ほかでもないアレイシアさんのことですもの」

 にこにこと微笑んではいるものの、目が笑っていないヒレンである。

 権力者とかだと困るなーなどと思っているアレイシア本人であるが、イチとヒレンの方がアレイシアへの態度にそんな調子であった。

 そんな中で、アレイシアはシュノサイドっていうとこの町を収めている人の息子かな? などとのんきだ。

 ジベルト・シュノサイドと呼ばれた茶髪の少年は、キッとアレイシアを睨みつけているが、アレイシアはそちらに関心はない。そもそもアレイシアは見た目はどうあれ、中身は百歳を超えたハイエルフであり、見るからにまだ十数年しか生きていない人間の少年相手にそんな大人げない態度をする気はなかった。

 「ヒレンさんが優しいからって―――」

 『燃やしていい?』

 「……死なない程度に燃やしてさしあげていいですわ」

 「あの、イチもヒレンも物騒な会話やめよー?」

 イチは大事な存在であるアレイシアに突っかかる存在が目障りなようだ。そもそも精霊にとって人とはあまり好きな生物ではない。しかし、人の中でも好きな人のためなら精霊はなんだってする。

 人の社会でのルールは精霊には何の関係もない。精霊とはそういう存在であり、好き嫌いがはっきりしている。そして敵には容赦ない。特にアウグスヌスの森でセイナと長い間一緒に居る精霊たちはそういう性格のものが多い。

 そしてヒレンにとってみれば、至高のハイエルフに向かって暴言を吐く人間――というのがジベルト・シュノサイドである。

 エルフは総じて、ハイエルフに対して並ならぬ思いを持っている。それもアキヒサの教育の賜物と言えるだろう。

 「俺の話を無視するな!」

 「あー、ごめんねぇ? で、何? ヒレンに迷惑をかけてるだっけ」

 「そうだ! 新人のくせに、ヒレンさんとあんなにしゃべりやがって。というか、ヒレンさんを呼び捨てなんて!」

 権力者ともめる=面倒なことだと教わっていたアレイシアはどうにか怒りを鎮めてもらおうとするものの、アレイシアの言葉は余計にジベルトの観に触ったらしい。

 アレイシアは怒鳴られて、困った顔を浮かべている。

 「人間、アレイシアさんに何をいっていらっしゃるの?」

 ヒレンの声から一切の親しみが消えていた。ジベルト・シュノサイドの事を名前ですら呼ばず、睨みつけている。

 それにたじろいだのは、ジベルト・シュノサイドである。

 そしてその様子を見物していた見物人たちも、ヒレンのその表情に目を見開いている。

 アレイシアは知らないことだが、ヒレンは基本的に笑顔をたやさない心優しいエルフの受付嬢として知られていた。その認識は大幅正しい。ただし、普段穏やかな人ほど怒った時恐ろしいという言葉があるように、ヒレンもまたそういうエルフであった。

 「お、俺はヒレンさんのためを思って」

 「私のため? でしたら今すぐ失せていただけませんか? アレイシアさんは私の敬愛してやまない方々の娘ですわ。ですから私はこの方の面倒を見れる事を嬉しくは思いはしても、面倒などと思うはずがありませんわ。

 寧ろ私の受付をするこの場所で、アレイシアさんがギルドの登録をしたことが誇りに思えて、私と同じ気持ちを分かり合えるであろう同志たちに自慢してまわりたいほどですわ。

 ですから、貴方がアレイシアさんに暴言を吐いたことは私にとってひどく不愉快なことですわ。ですから、人間、貴方はアレイシアさんに謝る必要性がありますわ。いえ、むしろ謝った程度で許されませんわ。少なくとも私は許しません。もう二度と顔を見せないでいただきたいどさえ思いますわ」

 ヒレンは一気に言った。それだけ怒り狂っているらしい。アレイシアも含め、周りの人々はその剣幕に驚いている。

 ヒレンは怒り狂いながらも、アレイシアとの約束を守り、アレイシアがハイエルフだとは一言も言っていない。敬愛してやまない方々の娘―――ハイエルフの娘でると言っているだけだ。

 『あははは、ヒレン、いいぞー、やれー』

 一人、イチは楽しそうに声を上げている。っていうか、なんでそんな楽しそうなの? お母さんが権力者にかかわるの面倒っていってたけど、これ大丈夫? などと心配になるアレイシアである。

 実際のところ、ジベルト・シュノサイドは純粋にヒレンに好意を抱いているだけの少年であり、ただのこの町を収める領主の息子でしかなく、この町の領主はできた人であるし息子の言い分で人を破滅においやったりは絶対にしない。

 「くっ、お、覚えてろよー」

 ジベルト・シュノサイドは何だか捨て台詞のようなものを言い放つと、アレイシアを睨みつけて駆けて行った。

 「あの人間っ、結局アレイシアさんに謝罪もないなんてっ」

 「いや、もう、ヒレンいいから。私は気にしてないよー」

 『燃やしていいなら燃やすよー?』

 残されたのはそんなエルフとハイエルフと精霊である。

 「って、物騒なこというのやめなさい。イチ。私は気にしてないから」

 「いえ、アレイシアさんが気にしないといえど私は許せません」

 「もう許してあげなよ。だってあの子まだ十数年しか生きてないんでしょ? ヒレンの事大好きだから私が気に食わないだけだよ」

 「いえ、私を好きだとか心底どうでもいいです。そして子供だからでは許せません。アレイシアさんを侮辱することは私の敬愛してやまないあの方々を侮辱する事と同等ですわ。我ら一同許せるはずがありません」

 アレイシアはそんなヒレンに困った。というより、エルフ族は全部こうかと思って頭を悩ませた。正直ハイエルフであることは隠しているし、そういう態度をされすぎても困るのだ。

 結局その後は怒り狂ったヒレンと物騒なイチをなだめるのに労力を使うことになるのである。



 そうしてその様子を遠巻きに見ていた人々は、アレイシアを馬鹿にすることはやめようと誓うのであった。なぜならそれはヒレンを怒らせることになると理解したからだ。




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