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7:依頼を受けてみる

 「アレイシアさん、おはようございます」

 次の日、イチを肩に乗せたアレイシアを迎えたのは、笑顔のヒレンであった。

 ハイエルフであるアレイシアを迎えられることが嬉しくてたまらないのか、満面の笑みである。

 エルフ族というものは総じて整った顔立ちの物が多い。というのもそもそもエルフの上位種であるハイエルフが整った顔立ちのものばかりだからともいえるだろう。アレイシアの両親もそうである。

 そんな美しいエルフであるヒレンがギルドでこのような笑みを浮かべている事は珍しい事であるようだ。ギルドないにいた冒険者たちがざわめいている。

 「おはよう、ヒレン。依頼を受けたいのだけれど、おすすめはあるかしら?」

 「そうですね。魔物の討伐や薬草収集などですわね。アレイシアさんは魔物の討伐はこなしたことあるのですよね?」

 「ええ、それはもちろん。家の周辺にいる魔物ぐらいなら」

 「……あそこの魔物を倒せるならどんな魔物でも問題はないでしょう。とりあえずDランクからならゴブリンなどの討伐になりますが」

 「じゃあそれで」

 アレイシアは簡単にヒレンに進められるがままに依頼を決める。

 そもそもの話、アレイシアの生まれた家のあるアウグスヌスの森に住まう魔物というのは、一流の冒険者でしか倒せないものばかりである。その魔物を日常的に相手にしているアレイシアにとってDランク程度の魔物は瞬殺出来るものである。

 とりあえず依頼を受けてみたい! という軽すぎる思いから魔物討伐の依頼を受けたアレイシアはヒレンが受注手続きをするのをそれはもう楽しそうににこにことみている。

 『アレイシア嬉しそうー』

 「嬉しいよー」

 アレイシアはイチとにこにこと笑い合っている。

 依頼を受けられるというそれだけで嬉しくて仕方がないとその顔は告げている見たことのない景色を見たい。やったことのない事をしたい。それが目的でここにいるのだから、はじめての依頼に喜ぶのも当たり前である。

 「アレイシアさん、どうぞ。依頼主は町の東に住む農家ですわ。そちらの畑を荒らすゴブリンを倒してほしいとのことですが、場所はわかりますか?」

 「わかんないなー。ちょっと詳しく場所教えてもらっていい?」

 「ええ、もちろんですわ」

 このシュノサイドの町へアレイシアが足を踏み入れるのははじめてであり、そもそもの話どこに何があるのかはまだ把握していない。もう少しどこに何があるかぐらい把握してから依頼を受けろよとでも言われそうだが、とりあえず依頼を受けてみたかったアレイシアである。

 やると決めたら、すぐに行動に移す。

 それが、アレイシアである。

 それからヒレンにどこに向かえばいいか教えてもらい、アレイシアはすぐにその場へと向かうのであった。

 鼻歌を歌いながらアレイシアはご機嫌そうにその場所にたどり着く。

 「貴方が、依頼を受けた方?」

 依頼主の農家の女性は、アレイシアを見て訝しげな表情を浮かべたものである。それも仕方がないことかもしれない。アレイシアは見た目的な要素でいえばたとえエルフだったとしてもそこまで強そうには見えないのだから。

 しかし、疑いの表情を向けられていようともアレイシアはにこにこしていた。

 どんな言葉をかけられようとも嬉しいものは嬉しいらしい。どこまでも楽しそうで、無邪気なアレイシアに依頼主は余計不安そうだが、アレイシアは気にしない。

 「……もうすぐ奴らがやってくる、危なくなったら逃げるんだよ?」

 「大丈夫だよー!」

 怪しみながらも、アレイシアの身を案じる女性に対してアレイシアは能天気な返事を返した。

 危機感がないらしい。というより、事実アレイシアにとってゴブリン程度どうとでもない存在である。

 それからアレイシアは畑の前で、ゴブリンたちを待つ。

 畑を荒らそうとしばらくしてから現れたのは、三匹ほどのゴブリンだ。

 「来たね」

 『アレイシア、やっちゃいなー!』

 「うん」

 農家の女性が家の中から心配そうにアレイシアを見守る中、アレイシアはやはり笑っている。

 アレイシアの事をなめきっている態度で近づいてくるゴブリンたち。ゴブリンというのは一匹一匹は弱いが数は多い魔物である。今回ここを襲っているのは少数だが、もっと大勢いるのならば依頼のランクも変わる。

 それとゴブリンは人型の生き物相手なら子供を作ることができるので、女は子供を産む道具としてさらわれる可能性もある。

 アレイシアには威圧感というものは一切なく、正直対面している方としてはアレイシアが強いとは気づきにくいものである。

 だからこそ、ゴブリンたちはアレイシアをなめきっていた。

 しかし、無邪気にほほ笑んだアレイシアが一つの言霊を発した。

 「風の刃よ、切り刻め」

 たったそれだけの一言。

 でもたったそれだけの言葉で、いつの間にかアレイシアの周りに構築された魔術公式。

 そして、魔法はなされた。そのまま、命が散った。

 ゴブリンたちは何が起こったかわからないうちに、魔術によって出現した風の刃によって首と胴体を分離させられた。悲鳴すらない。

 圧倒的な力を持って、殺された。

 「えっと、一応ゴブリンの体って売れるかもだから持って行った方がいいんだっけ?」

 『うん、そうだよー。まぁ、持って行かなくても倒したってことはギルドカードに証明されるらしいけどね』

 「一応持っていこうかなー」

 アレイシアはそんな会話をしながら、こちらの様子を見つめていた依頼主に近づく。

 「終わりましたよー」

 「え、あ、はい」

 「此処にサインお願いしますねー」

 「あ、は、はい」

 アレイシアに声をかけられた女性は見るからに怯えていた。その簡単に生物を殺せる魔術師としての腕に、恐怖したようだ。

 アレイシアはなんで女性がそのような様子なのかわからず、不思議そうな顔だ。

 「大丈夫? 顔色悪いよ?」

 「だ、だだだ大丈夫です」

 「本当にー?」

 無邪気である。自分が相手におびえられていることをあまり理解していない。

 というより、女性の敵であるゴブリンを倒したのだから感謝されこそすれど怯えられるという考えはないらしい。

 『アレイシア、この人間はぁ、アレイシア怯えている。だから、いいよぉ、放ってて』

 イチにそういわれてようやくその可能性に気づいたぐらいである。イチの言葉に状況を理解したアレイシアはその場をそそくさと後にするのであった。



 そして、はじめての依頼はあっさりと終わるのだ。




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