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6:おやすみなさい。

 「わー、楽しかったー」

 ヒレンにおすすめされた宿へと顔を出したアレイシアは、現在、宿の一室にいた。

 決して寝心地が良いとは言えないベッドの上に寝転がる。この場にいるのはアレイシアの他にはイチだけだからか、魔法を解いており、銀色の髪が曝け出されている。

 そして寝転がりながらも、今日一日の出来事に思いをはせる。

 アウグスヌスの森では見れない光景が沢山あった。もう百歳を超えるというのに、外の世界を知らなかったアレイシアからしてみればそれだけでも楽しい事だった。

 「人間って、お母さんが言うほど悪い存在ではないと思うんだけどなぁ」

 アレイシアは思わずといったように、今日であった人間たちについて考えてつぶやいた。

 『うーん、全員が悪くは、ないよー? ただね、セイナ様は昔人間のせいで苦しんだから』

 「……うん、それは知っている」

 『昔はねー。人間以外の種族はぁ、いなぁかったのぉ。だからねぇ、セイナ様は化け物だって言われて、利用されたりぃ、大変だったんだよお』

 イチの言葉に、アレイシアは思考する。

 正直な話、自分の母親であるセイナの過去の話はそこまで詳しく聞いたことはない。大変な目にあったことも、利用されそうになっていたことも知っている。

 だからこそ、セイナが人間の事を好きではないことも。

 そして自分の母親が面倒なことが嫌いで、接触してくる人間たちに嫌気がさして行った事件が世界的な事件として知られていることも。

 それゆえに、自分が今まで住んでいたアウグスヌスの森が聖地として認定され、何人も立ち入ることが許されない場所として認識されていたことも。

 「知ってはいるよ。でもわかんないんだよね。実際に、お母さんがどういう気持ちでいたかとか。そしてお母さんがあんなにも私が外の世界に出ることを反対していたことも」

 『セイナ様は、身内にはやさしー。敵には一切容赦がないけど』

 「うん、そうだね。お母さんは容赦がなさすぎだと思う」

 『そう、だからね。娘のぉ、アレイシアの事、セイナ様大好き! だからぁ、あんまり色々良い思い出がない外に出てほしくなかったんだよぉ』

 ふわふわと寝転がるアレイシアの周りを飛び回るイチはそんな風に告げる。

 精霊であるイチはアレイシアよりもセイナとの付き合いが長い。だから娘であるアレイシアよりもセイナの事をよく知っているのだ。

 「それにさ、人間って思ったより脆かった。あんなに脆くて弱弱しい存在を危険視しなきゃいけないものなのかなーって」

 『数が多い、から。人間にも、色々いるんだよ。良い人もいる、でもぉ、悪い人もいる』

 イチはそんな風に、外の世界を何も知らないアレイシアに教える。人間には良い人もいるし、悪い人もいるのだと。

 結局のところ、数が多すぎる人間をひとくくりに良いとか悪いとかまとめて言えないというそういう話である。

 お母さんは、『悪い』側の人間を沢山見てきたのだろうと、アレイシアは思う。それ故に苦労して、大変な目にあって、そして色々と吹っ切れて、今のお母さんがいる。―――そんな風に精霊たちにアレイシアは聞いていた。

 「……人とかかわりを持って生きていくなら、そういうところにも気を付けなければならないのね」

 『うん。アレイシアはぁ、ハイエルフだから、向こうからぁ、面倒なの、よってくる』

 「うえ、やだ、それ」

 精霊というものは素直な生き物である。基本的に嘘を吐くことはまずないといえる。そんな精霊に面倒なのが向こうから寄ってくるなんて言われてアレイシアはベッドの上で思わず顔をしかめた。

 『うん、だったらかくそうねー』

 「うん、隠す」

 『まぁねぇ、あがめられたいならぁ、ばらしても、だいじょーぶ』

 「もうー、やだもん、それー」

 アレイシアとイチは仲良し気な会話を交わしていた。

 「そもそもさ、やらかしたのはお母さんとお父さんとアキヒサ叔父さんであって私はなんの関係もないんだから、そんな言われても困るもーん」

 ベッドの上でごろごろしながら、そんな本心をアレイシアは語る。

 ハイエルフとは、エルフの上位的存在にして、膨大な魔力を有する。魔力によって寿命が決まるこの世界において、最も長寿な種族である。

 そして何より数が少ない。世界に知られるハイエルフは、三人。アレイシアの存在はハイエルフとエルフたち以外は知らない事実であった。

 まぁ、それもこれもハイエルフの中でも最も古くから存在し、最も畏怖される存在である『森の賢者』―――セイナが広めないようにと脅しつけたからにほかならない。

 『そうはいってもー、アレイシアはぁ、セイナ様のぉ、娘だからぁ、それでも注目されるー!』

 そうなのである。いくらアレイシア自身が自分は何もしていないと告げても、ハイエルフの一人であり、あの『森の賢者』の娘であるという事実だけでも注目される十分な理由であった。

 「もー、面倒だなぁ。でも、仕方ないか。私がお母さんとお父さんの娘だって事実はどういっても変わらないものだしね!」

 そういってにこにことアレイシアは笑うと、

 「じゃあ、イチ。私寝るね。明日から頑張ろうねー」

 『うん!』

 そうしてアレイシアは眠りにつくのであった。




 また明日から、冒険が始まる。




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