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5:町へと到着する。

 「わぁ、人がいっぱい」

 町を初めて見たアレイシアは、目を輝かせて目の前の光景を見て居た。何処にでもある、何処でも見れる街並みなのに、それでもアレイシアにとっては今まで見た事がなかった光景であったのである。

 まず、人が沢山いる。

 あふれかえるほどに存在する人が、日常を謳歌している。

 それだけでも心が躍った。

 アレイシアはこれだけ多くの人を一度に見たことはなかった。アレイシアの世界は、どこまでも閉じられていた。

 母親である『森の賢者』が過保護であり、人嫌いであったのもあってアレイシアはこの百年であったことのある人の数は少ない。

 「ねぇねぇ、ヒッサンあれなぁに?」

 「え、あ、あれは屋台だな、飴を売っている」

 「へぇ、あれが。というか、人多いねー。こんだけ多い人がどうやって過ごしているの?」

 「どうって普通に」

 「普通? 町の普通って何?」

 アレイシアは子供のようにはしゃいで問いかける。

 あれほどの強烈な魔術を見せつけたアレイシアのそんな姿に、ヒッサンたちはあっけにとられる。

 そして、とうとう問いかける。

 「どうしてそのような当たり前のことを聞くのだ?」

 と、そんな風に。

 ヒッサンたちにしてみればアレイシアが問いかけていることはどこまでも当たり前の事でしかなかった。

 「言ったでしょう? 私は家から出たことがなかったの。だから町に来るのもはじめてなの。だから、あなたたちにとって当たり前でも、私にとっては未知の領域なんだよ」

 そういって楽しそうに微笑む。

 その笑みはどこまでも美しい。この町のありふれた、当たり前のような日常を見るだけで心から楽しんでいることが見てとれる。

 「……そう、なのか」

 「うん!」

 「アレイシア殿、とりあえずギルドへと向かうとしようか。こやつらをさしだせば報酬がもらえるはずだ」

 「うん!」

 『アレイシア楽しそうー』

 にこにこと笑ってうなずくアレイシアに、イチも声を上げる。

 ちなみに盗賊たちを拘束して浮かせた状況で、町に入っているのもあってかなり目立っていた。が、特にアレイシアは気にしていない。

 

 そしてギルドへと到着する。


 ギルドの受付にいたのは、まだエルフの女性であった。そのエルフは空中に浮かべさせられている盗賊たちを見て、驚いた顔を見せた。

 それからヒッサンの説明を聞いて、アレイシアの名を聞いて、益々その顔を驚愕に染まらせた。

 「ん、どうしたの?」

 「ええっと、とりあえず報酬の計算をしますのでしばしお待ちください。アレイシア様は、ギルドの登録にこられたのですよね?」

 「ん? 私の事知っているの?」

 アレイシアが不思議そうに問いかける。アレイシアをここまで連れてきたヒッサンも、どうして『様』を付けているのかわからないのか怪訝そうな顔を浮かべている。

 そのエルフの女性は、アレイシアを手招きする。そしてその耳元に口を寄せていう。

 「……ハイエルフであられるセイナ様とフランツ様のご息女であるアレイシア様ですよね?」

 その言葉にアレイシアは、え、とでもいうようにそのエルフを見る。

 「覚えておられないのも無理はないでしょう。私はエルフの里にいる一エルフにすぎませんでしたから。私は貴方様を見たことがありますの。それにこのように自在に魔術を行使できるという点でもすぐにわかりましたわ」

 ふふと微笑む、そのエルフ。正直エルフの里にいるエルフのことはあまりアレイシアは覚えていなかった。何人かは知っているけれども、あとは名前も覚えていない。

 「私、あまり目立ちたくないのだけど」

 「ご安心ください。私どもエルフ一同、真祖のハイエルフの一族の方々の味方であります。貴方様がそうお思いなのでしたら、他言無用を誓いますわ」

 わざわざ音を阻害する魔法を行使して、そのエルフは微笑む。

 それを聞きながらアレイシアは、ああ、そういえばエルフってハイエルフを真祖とし、ハイエルフという存在を何よりも大切にしているんだっけなどと考える。

 そもそもエルフとは、ハイエルフであるアキヒサが人間との間に設けた子供であり、その血筋である。ハイエルフに対しての畏怖は教え込まれているだろうし、エルフの始祖であるアキヒサに関して言えば『セイナさんだけは敵に回すな』という教育を徹底的にエルフの里で行っているのだ。

 「なら、いいわ。それよりも私が森を出た話は広まっているの?」

 「ええ、アキヒサ様の口から近いうちにアレイシア様が森を出るという話は出回っておりましたから」

 「アキヒサ小父さんってば、なんて口が軽いのかしら」

 思わずといったようにアレイシアは口にした。それを聞いて、受付嬢は微笑む。

 「精霊様もよくいらっしゃいました」

 『ふふふ、僕も歓迎ー?』

 「ええ、精霊様は我らにとってあがめるべき存在ですもの」

 エルフの者は精霊を感知できるものしかいない。それはハイエルフであるアキヒサの血を継いでいるからだといえる。

 「それより、ギルド登録をはやくしたいのだけれども」

 「ええ、それなら簡単ですわ。まずはこちらに名前をお書きください。あとは魔力を込めれば本人認識が完了します」

 「ふぅん、それだけ?」

 「ええ。まぁ、その際に個人情報もギルドカードに刻まれますが、それは見れないようにすることも可能ですので心配はありませんわ」

 エルフの受付嬢は、それはもうにこにことアレイシアは心から歓迎しているという笑みを見せている。

 アレイシアという名を書き、魔力を込める。本当にそれだけでギルドへと登録なんて終わる。

 基本的にギルドは来る者拒まず、去る者追わずだ。第一ギルドの仕事には危険なものも多いため、登録者がすぐに死んでしまうこともよくあることなのである。

 「そういえば申し遅れておりましたね。私はヒレン。エルフの里を飛び出して早十数年、シュノサイド支部の受付嬢をしておりますわ」

 「私はアレイシア。そしてこの子はイチ。しばらくこの町にいるつもりだからよろしく」

 『よろしくー』

 「ハイエルフであられるアレイシア様と精霊であられるイチ様が私が受付嬢を務めるこのシュノサイド支部でギルド登録をするなんて、もう、同胞たちに自慢できますわ!」

 なんだか、ヒレンは目をキラキラとさせている。アレイシアにとってみればわからないことだろうが、それだけ光栄なことらしい。

 「あとアレイシア様ってやめてほしいな。折角髪の色も変えているから、バレたくない」

 「ならばアレイシアさんと呼ばせていただきますわ」

 そこまで話して阻害の魔法は解かれる。その後はヒレンがそれはギルドについて説明をしてくれる。

 「ギルドはまずFランクから始まりますわ。F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSと続きます。Fランクは雑用が主ですわね。コツコツとこなしていけばEランクに上がれます。最も、アレイシアさんに関していえば盗賊退治の報酬で一気にDには上がりますわ。盗賊退治はDランクより上の仕事ですから。そちらにあられる依頼一覧から受けたい依頼の紙をこちらに持ってきてくだされば受けることができますわ。アレイシア様ならばどんな依頼でもそつなくこなすことができるでしょうが、年のためDランクから受けて行ってはどうでしょうか。アレイシアさんは外の生活がまだわからないでしょうから」

 「まぁ、そうね。私は魔術の腕には自信があるけれども、外の生活は本の世界しか知らないもの、ちゃんと勉強もしなきゃいけないわ。ヒレン、教えてくれる?」

 「ええ、ええ、もちろんです! ところで、アレイシアさん、泊まる場所は決まっておりますか?」

 ヒレンは身を乗り出していった。そんな会話に、まわりが少し注目している。

 「いや、決まってないわ」

 「なら、私の家に来ませんか?」

 「それは、ちょっと……。私宿に泊まってみたいの」

 「そうですか、残念です。ならば、私が安心できる宿を紹介しますわ」

 などといったヒレンは嬉しそうににこにこと微笑む。

 「まず、アレイシアさんの先ほどの盗賊退治の報酬は銀貨30枚。高級宿なら二日、一般的な宿なら10日泊まれますわね。どちらがよろしいですか?」

 「普通のでいいわ」

 アレイシアはそう答える。そもそも宿というものにアレイシアは泊まったことがなく、どんな宿でも構いはしなかった。

 アレイシアの言葉に、ヒレンはにこにこと微笑んで、一つの宿をおすすめするのであった。




 そうしてそんなやり取りのあと、ヒッサンに、「アレイシア殿は、ヒレン殿と知り合いなのか…?」などと聞かれたが、アレイシアは適当にはぐらかすのであった。





 

 

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