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4:盗賊相手にやりすぎる。

 「その身をとらえよ」

 ヒッサンは目の前の光景に、目を見開き、”アレイシア”と名乗ったそのエルフから目をそらせなかった。それはヒッサンの後ろに控えているヒッサンの部下たちも同様であった。

 アレイシアが一言口にすれば、それだけで魔術が行使された。盗賊たちのアジトについてすぐの事であった。向かってくるものが、武器を持った男たちが、アレイシアの一言により一瞬で拘束される。そんな光景、誰でも信じられないと思うのは無理がないことであろう。

 魔術とは、この世界において誰でも使えるものであるが、《魔術師》と名乗れるほどの実力を持ち合わせている者というのは限られたものしかいない。

 ヒッサンの知り合いにも《魔術師》は居る。だけれども、目の前の光景は、それを起こしている少女は一重に《魔術師》という括りに入れていいのか定かではないほどに、巧に魔術を行使している。

 そもそも現在の魔術とは、既存の魔術公式を構築し、既存の詠唱をとらえるだけだ。

 魔術は何百年物間発展もせず、停滞もしていない。

 それが、常識的な、世界の見解である。

 自分の意思のままに、魔術を行使するアレイシアは異常である。簡単に魔術公式を展開し、独自の詠唱で、簡潔に魔術を行使する。

 そんなもの、ありえないはずだった。

 《魔術師》と呼ばれている存在達が見れば、目を剥くようなそんな光景だった。

 現実として目の前で起こっている出来事は、ヒッサンの目から見ても信じられないほどのものだった。

 「よーし、全員とらえた」

 その砦に居る全ての盗賊をとらえて、にこにこと微笑む。その姿に戦慄する。まだ若い少女、可愛らしいとさえいえる年頃の少女がいとも簡単に盗賊をとらえるなどという偉業をなしとげ、得意げに微笑んでいる姿は異常だ。

 それでいてその少女――アレイシアには盗賊に手を下す事に対する抵抗は一切ないようなのも、またヒッサンたちを何とも言えない気持ちにさせる要因の一つであった。

 「ん、どうしたの?」

 アレイシアは固まるヒッサンたちを不思議そうに見て居る。

 『アレイシアの、魔術見て、人間、びっくりしてるんだよー』

 「え、この程度で?」

 『アレイシアはセイナ様を見てきたから、わかんない! だろうけど、アレイシアも、十分《魔術師》としてぇ、優秀!』

 そして精霊のイチとまで会話をしだしたため、ヒッサンたちからすれば何が何だかわからない。ヒッサンたちには精霊の姿は見えない。

 「誰と話しているのだ、アレイシア殿」

 「精霊だよ、此処に居るの。私のお友達」

 にっこりと微笑んで紡がれた言葉に、益々彼らの目は見開かれる。精霊とは人にとって身近な存在ではない。それは精霊たちを利用しようとするものたちが数多いるのも理由であろう。長い年月の中で精霊は人の事を割と嫌っている。

 まぁ、アウグスヌスの森の精霊に関して言えば、一番仲良しなセイナが人を嫌っている事も理由の一つであろうが。

 「精霊まで従えているのか」

 「従えているんじゃないよ。イチは友達。私の事心配してついてきてくれた存在だもん。そういう言い方しないで」

 『人間は僕らの事、従える、とかいって、や!』

 ヒッサンとアレイシアの会話を聞いて居るイチは不機嫌層にアレイシアのすぐ隣でそんなことを言う。

 そんなイチの頭をアレイシアは軽くなでる。

 「うん、イチは私の友達だもんねー」

 『うん! アレイシア、僕ら、友達!』

 にこにこと二人で笑いあう。ヒッサンたちには精霊の声は聞こえていないようだが、アレイシアの言葉でどういう会話がされているか何となくわかったらしい。

 「……すまない。アレイシア殿は精霊を従えているのではなく、精霊と友人なのだな」

 「うん!」

 ようやくわかってくれたことが嬉しいとばかりに、満面の笑みを浮かべる。その可愛らしい笑みだけを見るなら、年頃の何処にでもいるような少女だ。

 だけれども、それが違う事をヒッサンは先ほどの事でわかっている。

 (この少女は、アレイシア殿は何処か普通とはずれている。それにあの力は恐ろしいものだ)

 ヒッサンの思いはそれであった。いや、それはヒッサンだけではなくその後ろに居る騎士たちにとってもそうだろう。先ほどアレイシアに突っかかった騎士なんて、もう可哀想なぐらい顔を青ざめさせている。

 それは、アレイシアの普通ではない力を見たからだ。

 それが自分に向けられたら―――とでも、想像しているのは目に見えた。その視線に気づいて、アレイシアはそんなことしないのになぁなどと思って苦笑を浮かべる。

 「それよりも、この盗賊たちどうするの? 連行するなら町までずっと動き封じとくよ?」

 あまり常識のないアレイシアはヒッサンが驚いている理由もわからないままに、話を変えるようにそう問いかける。

 「あ、ああ。それなら助かるが、出来るのか?」

 「出来るよ?」

 軽く言われた言葉に、ヒッサンはますます頭を抱えたくなった。これだけの人数の動きを封じているだけでも驚愕なのに、その魔術を町につくまでの長い距離の間継続していられるというのだ、驚かない方が無理である。

 しかし、そうしてもらった方が楽なのは確かなので、ヒッサンはアレイシアに「お願いする」と告げるのであった。

 それから彼らは町へと移動することとなる。



 

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