3.騎士たちと会話を交わす。
アレイシアの目の前には五人の武装した騎士たちが居る。
鎧をその身に纏い、腰に長剣を下げている。見るからに騎士。というか、何処からどう見ても騎士である。
それを見たアレイシアは、興奮した。
「わぁ、騎士様? はじめてみた。へぇ、本当にそんな重そうなもの着てるんだ……」
アレイシアは騎士という職業の存在を見るのもはじめてだった。まじまじと見つめて、そんな感想を漏らす。その目はキラキラしているが、重そうな鎧を身に着けている事に対して不思議そうだ。
だが、騎士たちからすれば普段着のような防御性もないラフな格好で、こんな場所を一人でうろうろしているアレイシアの方が信じられないだろう。
「騎士を見た事がない……?」
「うん。私、家から出てきたばかりだから」
三十代ほどのリーダー格の男の問いに、アレイシアはそんな風に答える。
それは事実であるアウグスヌスの森に存在する森から出てきたばかりなアレイシアである。
「そうなのか。しかし相当な魔術の腕だな」
その男、名をヒッサンという騎士は未だに動くこともままならない様子の盗賊たちへと視線を向けてそんな事を言う。
ヒッサンは魔術の心得がない。しかし魔術がどういうものかぐらいは知識として知っている。知り合いの魔術師は魔術を行使するのは大変な精神力を使うと告げていた。
だからこそ、平然と会話をしながらも魔術を行使し続けているアレイシアという存在はヒッサンの目から見たら異常な魔術の腕であった。
「そう? 私なんてお母さんに比べたらまだまだだよ」
「まて、貴様! さっきから年上に対する礼儀がないのか」
アレイシアが普通にため口で返事をすれば、ヒッサンとは別の若い騎士がそんな風に声を上げた。
それを聞いてアレイシアはそういえば、と思う。そもそも魔力と寿命しか違いがないのだ。ハイエルフと人間も。あとは魔力を多く持つもの特有の銀色などの髪を持つかどうか。
「私、貴方たちより年上だもの」
しかし彼らが人間なのは確かだろうとアレイシアは思う。なればこそ、寿命が百歳もない人間よりも、百年生きている自分の方が年上なのは確実な事であった。
「年上? もしかしてエルフ?」
「ふふ、そうね、エルフよ」
ハイエルフはこの世界で三人しかいないと認識されている。アレイシアは外に出た事がなく、その存在を外の人々は知らないのであった。だからこそ、ハイエルフであることは隠すようにと母親にも何度も言われていた。
エルフという事にしておけば色々と便利だろう。そもそもハイエルフはエルフの上位種と認識されているのだから、アレイシアがエルフというのもある意味間違いではない。
「それより、この人たちどうしたらいいかなー? 盗賊ってやつなんでしょ?」
アレイシアは相変わらず魔力で拘束している盗賊たちの事を相談するような事を言う。
「……あなたは」
「私はアレイシア」
「アレイシア殿は元々この者どもをどうするつもりだったのだ? 先ほど魔術で殺していたが」
「私、家から出た事なかったから人間見るの初めてだったの。人間って簡単に死ぬって聞いてたけどどのくらいで死ぬのかわからなかったから魔術使っただけ」
「それで、使ってみた感想は?」
「うーん、人間って脆いなって思ったわ」
それがアレイシアの正直な感想である。たったアレだけの魔術で死んでしまうほどに脆いとはアレイシアは考えてはいなかった。散々人間が脆い存在だとは聞かされていたけれども、それでも想像以上に人間は脆かった。
「そうか……」
「うん。これから人間相手にするときは手加減覚えなきゃなと思ったの」
「それがいいだろう。盗賊に関してだが、こやつらは指名手配されていたから報酬が出るはずだ」
「それってギルドに登録していなくても大丈夫?」
「問題ない。こやつらを差し出せばそれで報酬はもらえる」
「ふぅん、そっか。ありがとう。ところでギルドに登録したいんだけどギルドに登録するには何処の町が近いかな?」
目的もなく、行きたい場所に行こうと飛び出したアレイシアは周辺の町の情報も詳しく知らない。そんな状況で冒険に出るなと突っ込まれそうだが、アレイシアはそういう少女だった。
アレイシアの言葉に、ヒッサンは答える。
「ここからなら、シュノサイドが近い」
「へぇ、どっちにあるの?」
「……シュノサイドの場所も知らないのか?」
ヒッサンが呆れた声を上げる。周りの騎士たちも周辺の町の情報も知らないでギルドに登録をしたいなどと言っているアレイシアに呆れ気味だ。
「うん、知らないよ」
「……そうか、なら俺たちと一緒に行くか?」
「いいの?」
「ああ。俺たちはアレイシア殿が捕まえた盗賊たちの討伐のためにここにきていたのだ。だからこの後は盗賊たちのアジトに向かい、残党を捕縛または討伐する予定だ。町へ向かうのはそのあとになる」
「盗賊たちのアジトに居る残党を捕縛または討伐かー、私も手伝おうか?」
アレイシアは軽い口調でいった。一般人にとって危険な盗賊といった存在を捕縛又は討伐するという事はアレイシアにとってみれば危険な事ではないらしい。にこにこと微笑むアレイシアにヒッサンたちは毒気を抜かれる。
「……では、お願いしよう」
しかし先ほどの魔術の腕を見て、アレイシアが魔術師として一流であることは理解していた。だからこそ、ヒッサンはただそういった。
―――騎士たちと会話を交わす。
(森の賢者の娘は、何処までも無邪気)