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35.彼らにとっての神は決して、彼らの思う存在ではない。

 セイアーツ教は、ハイエルフと呼ばれる長寿の種族を神としている宗教である。

 そもそも、何故、彼らがハイエルフをあがめ始めたかといえば、元祖のハイエルフである『森の賢者』セイナが歴史に名を残すようなことを起こしていたからといえる。人の力では決して届かない境地におり、遥か昔より存在している長寿の存在。

 それに加えて、圧倒的な《魔術》の腕を持ち、聖地に住まう。そういう様々な要素が加わって人間のうちの数名が彼女を神のようにあがめ始めたのがきっかけだった。―――決して本人を知らないというのに、ハイエルフという存在を思い描いて、宗教における教典が作成され、ハイエルフがどういう存在かというものを学ぶ。とはいえ、それは所詮ハイエルフ本人を知らずに語っているものに過ぎない。いうなればセイアーツ教の語るハイエルフは、彼らにとっての神は、セイアーツ教の創立者たちが想像して形作られたものであり、実物のハイエルフ達がそうであるかというと、そうではない。

 セイナ、フランツ、アキヒサという三人の認知されているハイエルフ達は、今までセイアーツ教と接触した事はなかった。接触する気もなく、自分たちを勝手に神聖視し、神のように扱い、あがめ始めた存在に対して面倒だと思っていた。

 ハイエルフを実際に知るエルフたちに関しては、実在のハイエルフとは違うハイエルフを語るセイアーツ教とは距離を置いていた。

 セイアーツ教にとって、ハイエルフは神聖で、神で、自分たちにとって都合が良い存在であった。

 そしてエルフたちにとってみれば、ハイエルフは自分たちの祖先で、身近に存在する絶対に逆らってはいけない存在である。自分たちの都合の良いように利用なんてしようものなら殺されるのがわかっているので、もちろんそんなことはしない。エルフたちは、アキヒサに「セイナさんだけは頼むから怒らせないでくれ!!」と散々言われている。

 さて……、セイアーツ教の前に認知されている三人のハイエルフが現れた事はなかった。しかし、今、『森の賢者』セイナは、今、セイアーツ教の支部を攻撃していた。





 「……まさか、ハイエルフ」

 「私たちの前に現れてくださるなんて。でも、どうして攻撃なんて……」

 「私どもは我らが神が喜ぶようなことしかしていないというのに」

 驚くもの、青ざめるもの、疑問を口にするものと多々居たが、とりあえず彼らの頭は何とも呑気だった。自分たちはハイエルフのために尽くしてきた。だからこそ、こうして目の前に顕現してくれたなどという妄想にとらわれているものも多数いた。

 特に、アヒートはそうだった。

 「ハイエルフであるセイナ様ですね!! 私共の願いがこうして叶う事になるとは。こうして私たちの前に顕現してくださるなんて、私たちの奉公が貴方様に通じたのですね」

 セイナは氷の刃で結界を貫通させ、建物にも一部穴をあけた後、すたすたと中へと足を踏み入れていた。後ろからベストもついてきている。ベストは青ざめている。セイナは、にこりとも笑わず平然としている。

 「貴方は?」

 「わたくしめは、大司教のアヒートで……」

 「ふぅん。貴方が」

 「私を知っていてくださるとは——」

 セイナが自分の事を知っていてくれているというアヒートの言葉は先には続かなかった。セイナが、手をかざし、彼は絶命した。

 喜んだ表情を浮かべたまま、体を切断されて絶命である。

 自分の娘であるアレイシアを、セイナの娘と知らないとはいえ、拘束している存在。セイナは笑みも何も浮かべていない。ただ表情も変えずにそれを見ている。

 「……えええええ。こ、殺す必要は」

 ベストが狼狽しているが、セイナはすたすたと進んで行った。それにベストは慌ててついていく。

 ―――セイナは面倒だと思っていた。のんびりとあの聖地と呼ばれる地で過ごせればそれでセイナは良いと思っていた。人の世に進んでかかわろうとなど考えてもいないし正直娘であるアレイシアを外の世界に出すのも反対であった。自分がお腹を痛めて生んだ子供。そんな娘が大変な目に合う事を親として喜ぶはずもない。

 セイナは家族という存在を大切にしている。家族という括りの中に入れた存在には、心を許している。その大切にしている娘を、外の世界に出たいと願ったからこそ外に出した娘を、籠の中の鳥のようにする存在に怒っていた。もちろん、自分がアウグスヌスの森から出たくなかったのに出なければならなかった原因だからというのもあるが。

 「必要がないとか、必要があるとかそんなの関係ないわ。気に食わないもの。今まで害がなかったから放っておいたけれど、私たちを知りもしないであがめて、私の娘に危害を加える宗教なんて私はいらないわ。だから、潰すの。貴方は……人が死ぬのも、見たくないならホテルに戻っても構わないけれど」

 「……ええ、っと」

 「まぁ、その場合は私はアレイシアを一旦連れ戻すから貴方はもう二度とアレイシアに会えないかもだけど」

 「ついていきます!」

 セイナはセイアーツ教自体を邪魔だと思っていた。潰すと躊躇いもせずに口にする。そんなセイナにベストはおじけついていたが、一度森へとアレイシアを連れ戻す気なので、その後会えるか分からないと口にすれば、ベストは即答した。ベストは、アレイシアがハイエルフだと知っても、アレイシアを見る目が変わっていなかった。アレイシアの事を大切には思っていた。

 セイナはそれを感じ取って、時代は変わったと感じてならない。

 もっと昔、世の中で人間と異常に寿命の長い存在——ハイエルフしか存在しなかった時、彼らは人間と相いれる事が出来ない化け物扱いだった。それが、エルフが生まれ、竜族や獣人が出てきて、そして彼らはハイエルフと呼ばれるようになって……そういう時代になったからこそ、彼女の娘は、セイナの昔よりは生きやすい。

 「……そう、ならついてきなさい。そして貴方はハイエルフの力をちゃんと見なさい。これからも、アレイシアの弟子としてついていきたいのならば」

 「はい!」

 今度はおじけついた声ではなく、勢いよく元気にベストは返事を返した。



 そしてセイナは、その後セイアーツ教の信者たちの前で「セイアーツ教をつぶす」という事を宣言する。それに逆らうのなら殺すと告げ、それを有言実行した。信者たちは自分の命が惜しくて、怯えた顔でセイナの言葉を受け入れていく。どんどん奥に進んでいき、そしてセイナとベストはアレイシアの元へととりあえずたどり着いた。




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