29:接触は止まらない。
「アレイシア様、どうして私とお話をしてくださらないのですか。私は是非魔術をみたいのに」
あの修道女は、アレイシアに何度も何度も接触をしてきた。アレイシアが話をしたくないといったのいもかかわらず、何故だと問いかけてくる。
アレイシアはハイエルフを崇拝する集団なんかとかかわりたくはなかった。かかわったら面倒な事になることが目に見えていた。だけど、そんな気持ちは周りには分からない。
どうして話ぐらい聞いてやらないんだとか、言ってきたりもする。加えてセイアーツ教の信者である魔術師たちは、セイアーツ教から逃げようとしているアレイシアに対し、本当にそんな強大な魔術を使えるのかと訝しむものもいる。
「アレイシアさん、どうしてセイアーツ教の人の話も聞かないの?」
「……あまりかかわりたくないのよ」
ベストにも言われて、アレイシアは何とも言えない気持ちで答える。
人が厄介だという事を散々母親であるセイナに聞かされてきた。だからといって人間すべてが敵だなんては思っていない。けれども、セイアーツ教にかかわりたいとは思わなかった。自分たちを崇拝している存在。ハイエルフを崇高な存在だと信じ切っている存在。宗教とは総じて面倒な性質を持ち合わせているとアレイシアは思っている。もちろんちゃんとしている信者もいるだろうけれども、セイアーツ教は性質がまた違う。
セイアーツ教はこの世界においてハイエルフという存在が特別なのもあって、セイアーツ教の信者の数も多い。それでいて、普通宗教というものは会う事の出来ない神をあがめているものがほとんどだ。でも、ハイエルフは実在している。人の世にかかわってきていないというだけで、確かに存在している。それでいて人間はハイエルフを正確には知らない。
……アレイシアがハイエルフだと露見したらどうなるのだろうか。
アレイシアはただのエルフとして、この世界を見て回りたいと考えている。ずっと森で過ごしていたからこそ、外を見たいと。
でも、話も聞かないとなると、流石に問題かなともアレイシアは考える。
「……少しぐらいの接触許さないと、おかしいかな」
『やめた方がいいと思うよー? 宗教とかぁ、欲深い人間いっぱいいそうだしぃ』
「でも話も聞かないと周りに怪しまれてしまうじゃない」
『そんなの全部排除すればいいよぉ?』
「……いや、駄目じゃない。それ」
アレイシアはイチの言葉に思わずそういう。アレイシアの母親であるセイナも、セイナと仲良くしている精霊達も、基本的に容赦がない。敵は排除すればいいと考えているし、自由に生きている。
しかしアレイシアはセイナのようにひきこもって生きる事を望まず、人の世に関わりながら生きていきたいと望んでいるのだ。将来的にアレイシアがどう生きていくかは分からないが、それでも現状は旅をして色々なものを見て回りたいと考えているのだ。その過程で宗教を警戒しすぎて敵に回すと厄介な事になるのではないかとアレイシアは思った。
「一回だけでも、話を聞いたりしたら諦めてくれるかなって思うの。だから一回はね、話すよ」
『むぅ、どうなるかわかんないよー?』
「確かに欲深い人は沢山いるだろうけれどもそんな人ばかりではないとは思うし……何かあったら、助けてね、イチ」
『うん。それは当たり前ー』
アレイシアはイチとそんな会話を交わして、その二日後、セイアーツ教のあの修道女の女性と会う事になった。
「アレイシア様、ようやくお話をしてくださるのですね。私が何か粗相を犯してしまったかと思ってしまいましたわ」
修道女の女性——イヒアは眉を下げてそういった。アレイシアに粗相を犯してしまったのではないかと不安だったらしい。その顔を見てアレイシアは少し悪い事をしてしまったなと考えてしまう。
「ごめんなさい。そういうわけではないの。ただあまり宗教的なものにはかかわりたくなくて」
「そうなのですか……でも、エルフの方々もハイエルフの皆様方を同じくあがめているというのに私共と会話を交わしてくれないんですよね」
アレイシアはそれを聞いてそれはそうだろうと思った。エルフにとってハイエルフは実在する存在である。確かに恐れ多く、あがめてはいるだろうが、神としてあがめているわけではない。寧ろそこまで宗教的なほど盲目になれば、セイナが不機嫌になるのはセイナを知るものであればすぐにわかる事である。
アレイシアはセイアーツ教の事を詳しく知っているわけではないが、そもそも魔法がエルフより使えて、エルフに好かれているという理由だけでアレイシアに近づいてくるのを考えると、ハイエルフが目の前にいればどのような行動を起こすかわかったものではない。
「エルフと、セイアーツ教では、色々違いますからね」
「何が違うのでしょうか? どうしてエルフの前にはハイエルフの皆様方は姿を現すのに、私共の前にはどうして」
「……それは私にもわかりません」
なぜかなどという事は答えられるが、答えたら面倒なことになりそうだったため、そう答えた。
それから他愛のない会話をして、適当に切り上げてアレイシアはその場を後にした。
で、一度はしっかり話したしこれでいいんじゃないかとアレイシアは考えたのだが、益々セイアーツ教の接触は多くなってしまうのであった。




