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28:接触されて困ってしまう。

 ハイエルフとは、エルフたちだけではなくこの世界にとっても特別な存在たちである。永遠ともいえる時の中を生き続ける存在。圧倒的な力を持ち、この世界の歴史の中に存在する者。

 エルフたちは、ハイエルフをあがめている。彼らを大切にしている。それは、エルフたちにとっての『守護者』であるアキヒサの教えが徹底されているから。

 ハイエルフ、特に『森の賢者』と呼ばれるセイナは容赦がない。それをエルフたちはきちんと理解している。もし敵対すれば、彼女がエルフたちを葬るのに躊躇いもしないという事を知っている。

 だから、彼らは愚かな真似は決してしない。

 だけど、人間は違う。

 人間はハイエルフを正しくは知らない。

 セイナは人が嫌いだ。人とかかわる事を嫌っており、だからこそ聖地にひきこもっている。

 フランツも同様に森から出てくる事はない。

 エルフの『守護者』と呼ばれているアキヒサだって、人の世にかかわってこない。

 竜族や獣人といった種族たちは人間よりも種族が長く、それなりにハイエルフについての事が伝えられている。

 だけど、人間は寿命が短い。

 書物が残っていたとしても、正確にハイエルフというものを知らない。

 知らないままに、勝手に信仰している団体さえもある。

 『セイアーツ教』、その名を持つ宗教団体の信者はそれなりの数が居る。

 それはなぜかといえば、ハイエルフ達は長い寿命を持ち、なおかつ圧倒的な力を持ち、そういう存在は神であるという事に納得する人間が多いからともいえる。またハイエルフは《魔術》に長けているものが多く、《魔術師》の多くはハイエルフのようになりたいと『セイアーツ教』を信仰する事も多い。


 さて、そんなセイナ、フランツ、アキヒサというハイエルフを神としてあがめている宗教団体が、アレイシアに接触した。





 「貴方がアレイシア様ですね。短期間でAランクに上がったという」

 声をかけてきたのは、にこにこと笑う女性だった。修道服を身につけた存在は、アレイシアを見ている。アレイシアとベストが食事をとっている中での接触だった。

 「ええ。貴方は?」

 「私は『セイアーツ教』の修道女ですわ」

 その言葉を聞いた時、アレイシアは飲んでいたものを噴き出すかと思った。

 自分の両親、自分の叔父を神として進行している宗教団体。正直かかわり合いたいとは思っていなかった。

 アレイシアの隣に存在するイチは胡散臭そうに修道女を見て、『燃やす?』と物騒な事を問いかけている。

 「どうして、『セイアーツ教』の修道女が私の元へ?」

 かろうじて冷静さを保ってそういった。アレイシアにとってセイアーツ教からの接触は予想外の事であり、もしかしたら自分がハイエルフとばれて接触されているのではないかと不安にかられた。

 「エルフで、エルフたちに好かれていて、これだけの実力を所持しているアレイシア様に興味がありまして。まるで伝承の中のハイエルフのようではないですか」

 「そうですか? 私は普通のエルフですよ?」

 「魔術の腕もとても素晴らしいと聞き及んでおります」

 その修道女はとてもキラキラした目でアレイシアの事を見ていた。

 「はっ、申し遅れました。私はアンジュラと申します。興奮してしまいすみません。私たちの神であるハイエルフの方々と同等とは言えないのでしょうが、普通のエルフ以上に魔術を使えると聞いているので、是非ともそのお力を見たいのです!!」

 それは純粋な願いのように見えたが、アレイシアとしてみれば自分の親しい者が神扱いされているという事で複雑な気分でいっぱいであった。

 神と崇拝しているものたちとアレイシアが同類だと知られたらどうなるのだろうか、もし、神とあがめている存在の娘だと彼らに知られたら————、大変な事になるのではないかと。

 「すみません、私たち、急いでいるので。店主さん、会計ここにおいておくわ。ベス、いくよ」

 アレイシアはさっさとその場から姿を消す事を選んだ。ハイエルフを崇拝している集団と長時間話したいとも思わなかった。ハイエルフが神などでは決してない事を、アレイシアはハイエルフとして知っている。実際にハイエルフの事を知らないのに、ハイエルフを神とあがめて崇拝している団体。そんな存在に、ハイエルフと知られてしまったらと思うとぞっとして仕方なかった。

 「え、うん」

 急に食事をやめてそこから立ち去ろうとするアレイシアに、ベストは慌ててついてくる。

 店を出てからベストが聞いてきた。

 「あれって、この街では結構力の強い宗教団体だって聞いたけどいいの?」

 「ええ」

 『セイアーツ教』はこの街ではそれなりに力の強い宗教団体だ。今いる街には『セイアーツ教』の支部もあるらしく(アレイシアは来るまで知らなかったが)、団体の中でも地位の高いものも街にいたりするらしい。

 相変わらずベストは何かを聞きたそうにしていたけれど、アレイシアが聞いても答えてくれないと知っていたからか、何も言わなかった。




 アレイシアは『セイアーツ教』を振り払った。でも接触はそれだけで終わらなかった。


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